性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

FTMは早死にするのか?

先日、うちに男性ホルモンを打ちに通っているFTMのひとが、内摘をしない理由を次のように話していました。

要点は、①現在、彼女がいて将来結婚したいと思っている。ただ、ブログなどを読むと内摘すると寿命が縮まると書いてあった。その病気は、血管系の病気

②そのため、内摘して性別変更をし、その後に結婚したとしても、自分が先に死ぬ可能性が高いから、どうしても内摘する決断ができない。ということをお話していました。

ネット情報を鵜呑みにしてよいのだろうか?

これらの情報は、SNSなどを通して、さまざまな情報が氾濫している弊害でもあるのかもしれません。

よくありがちなのは、あるブログに、「友だちの友だちが内摘したあとに、病気になって亡くなってしまった」とか、「友だちの友だちが自殺してしまった」などの情報からなのでしょう。確かに、実際にそういう事実があったのかもしれません。

でも考えてみてください。この点については、FTM以外の男性(シス・ジェンダー)と比べてどうなのか知る必要があります。病気になって亡くなるひと、自殺して亡くなるひと、不慮の事故で亡くなるひと、どれをとっても性同一性障害GIDに限らず、GID以外のひとにもある一定の頻度で起こることです。

ブログの情報によることも「まわりの近しいひとが亡くなった」というは事実かもしれませんが、おそらくその起きたことはたまたま起きた可能性が高いと言えるでしょう。

これらの事実が本当なのかどうかは、実際には医学的統計を調べてみないと「本当の事実」は見えてきません。友達が亡くなったから、やはりそうなんだ・・・と、短絡的に考えてしまわないことです。

よくいわれているFTM治療の副作用

ちなみに、FTMで特別に考えられるのは、
①男性ホルモンによる血管系の病気
②自殺☞GIDの自殺と頻度
ぐらいでしょうか?

これらの性同一性障害GIDとGID以外の死亡率というのは、日本では統計をとったものはありませんが、海外では大規模な死亡率の調査をしています。

血管系の病気

この病気は、心臓、脳の血管系の病気で、いわゆる心筋梗塞、脳梗塞を指します。では、これらの病気による死亡率がFTMの男性より高いのでしょうか?

男性ホルモン治療を始めると「多血症」気味になると言われています。簡単にいうと、血液が多すぎて、そのため血管内の血液がドロドロ(粘度が高くなる)になることです。

これは、ふつうの頻度で打っていれば、あまり心配することではありません。極端な話、2週間で250mを打ち続けている、1週間おきに125㎎を打っているなどは多すぎます。いくら男性化を早くしたい、もっと男らしくなりたい。これの用量は少しリスクが高くなります。

統計上のFTMの死亡原因

アムステルダムの2011年の研究報告*によると、FTM365人(このうち343人が内摘済)を1975年から1997年の約20年の追跡調査で、死亡は12人(3.4%)で、一般男性人口と比較して死亡率はほぼ同等でした。

先ほどの心配していることの1つ、心血管系疾患。この代表は心筋梗塞です。この調査で死亡したひとは1名でした。72歳で、しかも男性ホルモン治療を開始してから42年後でした。ちなみに死亡した12人の内訳は、悪性腫瘍(がん)5人、心筋梗塞1名(前述)、消化器系疾患1名、神経系疾患1名、自殺1名、薬物中毒1名、不明2名でした。意外にも脳血管疾患はいませんでした。

このようにFTMで、男性ホルモンをしているから、もしくは、内摘したために心血管系の病気になりやすい、死亡率が高いということは統計からは見いだせません。FTMの治療はMTFの治療に比べて安全です。その他の研究報告も似たような結果です。適時その他の統計も紹介したいと思います。

このような客観的な医学データを信じるか?当事者のブログを信じるか?
参考にしてくださいね。

今回の統計は、以下の医学論文を参考にしています。
*「異性間ホルモンによる治療を受けている性転換者の死亡率に関する長期追跡研究」A long-term follow-up study of mortality in transsexuals receiving treatment with cross-sex hormones 2011 164;635-642
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自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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