- 注射周期が長い: ネビドは長期持続型の男性ホルモン注射であり、通常3~6ヶ月に1回の投与で済むため、頻繁な通院が不要です。
- ホルモン値の安定: 血中の男性ホルモン濃度が安定して維持されるため、短期持続型の注射に比べて「ホル切れ」の症状(ホルモン急減によるイライラや倦怠感など)が少ないです。
- 副作用が少ない: 短期持続型の注射に比べて、副作用(例えば多血症のリスク)が軽減される傾向があります。
FTMの男性ホルモン治療において、使われる男性ホルモン(テストステロン)は、効果持続期間によって、短期持続型と長期持続型に分けられます。
短期持続型 | 長期持続型 | |
薬剤名 | エナント・エステル | ウンデカ酸 |
商品名 | エナルモン、テストロン、テスチノン | Nebido(ネビド) |
効果期間 | 125mg:2~3週
250mg:3~4週 |
3~6か月 |
構造式 | ![]() |
![]() |
注射部位 | 片方の腕または、お尻 | 両側のお尻 |
痛み | ** | **** |
形状 | ![]() |
![]() |
ネビドと短期持続型テストステロン値との違い
ネビドで治療するよりもエナント酸テストステロンの方が平均的に高くなります。それだけ身体的に負担がかかり、副作用を生じるリスクが高くなるということです。
→多血症(赤血球増加症)の頻度が高くなります。
これは脳卒中のリスクを高める可能性があり、テストステロン投与の一時的な中断や投与量の調整、または瀉血などが必要になります。
赤血球増加症のリスクは、ネビドを用いた大規模な研究では、赤血球増加症の発症は示されていません。これは、次に説明するテストステロン値を生理的基準値内に維持できるからです。
テストステロン値を生理的基準値内に維持できる
従来のテストステロン(エナルモンなど)投与後の血中濃度のピークは、生理的基準値を超えてしまいます(下図)。これは、通常の男性では考えられないことで、このことで、常にテストステロン値が平均的に高くなる原因になります。
【短期持続型の場合】
【長期持続型の場合】
通常、短期型テストステロンは、注射したその日にテストステロンの血中濃度が生理的基準を超えることが知られています。その点、ネビドはピーク時でも男性ホルモンの生理的基準値を超えないことは、大きなメリットです。
利便性が高い
従来のエステル酸(エナルモンなど)は、125mgで2週に1回、250mgで3週に1回という頻度で通院する必要がありますが、ネビドは、短くても3か月で、長く効果が持続する場合は5,6か月です。
ネビド投与による血液データの変化
・男性ホルモン関連の増加
テストステロン増加とともに、5α-ジヒドロテストステロンも有意に上昇(P < 0.02)。
・女性ホルモンの低下(17βエストラジオールの変化)
血漿中の17βエストラジオール値が有意に減少します。女性の正常範囲値に比べて低く、従来のテストステロンエステル治療を受けたトランス男性の値よりもわずかに低い結果が得られます。
・ヘモグロビン、ヘマトクリットの上昇
ヘモグロビンとヘマトクリット値が増加しますが、生理学的範囲内に収まります。
・コレステロールとLDLは有意に減少
LDLとコレステロールはわずかに減少しますが、HDLには影響がほとんどありません。これにより、心血管リスクが増加する可能性は低いとされています。
・多血症
多血症(赤血球増加症)はネビドでは観察されていないものの、従来のテストステロンエステル治療では頻繁に報告されています。
ネビド治療の身体的効果
LH(卵胞刺激ホルモン)、プロラクチン、SHBG、HDL、子宮内膜の肥厚(厚くなること)が有意に下がります。
性欲の増加、クリトリスの増大、ニキビの発症、声が低くなる、体毛の増加、ヒゲなどは、短期持続型テストステロン・エステル投与で起こる症状と同じです。
高血圧は、FTMにおいて、テストステロンの典型的な副作用と知られています。血圧は上昇する傾向にあり、唯一相反する影響です。テストステロン治療を始める際には、高血圧のチェックをした方がよいです。とくに、ネビドを選択する際には行ったほうがよい。初めてテストステロン治療を開始する際には、短時間型テストステロンで一度試して使用したほうがよいです。
ネビド治療によるその他の身体的影響
ネビド治療と骨粗鬆症
テストステロン濃度が高いと、LH(卵胞刺激ホルモン)は特に低値であることが挙げられます。LHは、適度なホルモンの指標になり、骨粗鬆症のリスクの判断にもなります。
これらに反して、テストステロン治療を行っていた2年間以上は、骨密度が増えるというデータもありますが、増えているというよりもホルモン治療している12か月は、むしろ、大腿頚部と腰椎の骨密度は維持している状態であったという報告もあります。
一方、FTMでのテストステロン治療では、骨密度は増えないという報告もあります。 一般的には、トランスジェンダーは、適度な性ホルモンを投与していれば骨粗鬆症のハイリスクではないとされています。
ネビド治療と生化学
肝酵素の上昇は、MTFにだけでなくFTMにも生じます。肝酵素が高くなる傾向にありますが、臨床的な変化はあまり見られないとされています。
通常のテストステロン治療では、SHBGとHDLは下降傾向で、トリグリセライド、総コレステロールは一定であると報告があります。
これらの変化は、心血管系疾患のリスクが増大するといわれています。しかしながら、疾病率、死亡率に変化はないという報告もあります。
ネビド治療とBMI(Body Mass Index)
BMIの増加は、体液保持、または体重増加、体脂肪量増加によるものかもしれない。この身体の構成についてはさらなる研究が必要である。しかしながら、短期持続型テストステロン・エステルで治療したFTMは、体重は減るけれども、体脂肪量は増えるという報告もあります。
ネビド治療と卵巣腫瘍
卵巣の病理的変化はないとされていますが、長期持続型テストステロン(ネビド)治療を受けているFTMで、数例で、卵巣腫瘍が報告されています。両側の卵巣を摘出すると卵巣腫瘍を抑制できるかもしれません。
持続的にテストステロンを注射して、両側の卵巣を摘出した生物学的な女性(FTM)の報告では、LHの増加に伴い骨密度は減ります。テストステロンは、骨量を十分に維持できない、テストステロンが適量かどうか見るにあたって、LHの測定は、テストステロン濃度よりよいと考えられます。
ネビド治療と血管系疾患
長期持続型テストステロン(ネビド)を投与するにあたり、副作用が少ないとはいえ、血栓、塞栓、卒中、心血管系疾患障害、肝機能、血糖などの安全性がどうか見極める必要があります。
長期持続型テストステロンの利点は、3~6か月おきの注射でよいこと。しかし、長期持続型のため、副作用を生じると不利益を被る可能性もあります。
【その他の男性ホルモン剤について】
☞FTMの男性ホルモン治療は、125または250がよいのか?そして間隔は?
☞FTMの男性ホルモン注射治療について
当院は、主に性別不合、性別違和専門クリニックとして、性別不合(GI)学会認定医による性別不合、性別違和に関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
☞クリニックのご案内
ホルモン治療、手術についてわからないことなどありましたら、気軽にライン、またはメールからお問い合わせください。