現在、FTMの男性ホルモン治療においては、容量や注射する間隔はさまざまです。治療する上で、期待される効果、副作用だけでなく、その薬にあっているか、身体的、社会的、経済的な事柄にもとづいて用量を決めるとよいと考えられています。

男性ホルモンには、注射、パッチ、ジェルいろいろな種類があります。そして、容量もさまざまです。日本国内では、残念ながらパッチはありません。ジェルの販売はありませんが、☞男性ホルモンクリームはあります。

もっとも頻繁に使われている筋肉注射用の男性ホルモンは、100~250㎎の男性ホルモンエナント酸です。そして、これらはたいてい各医療機関で2~3週毎に行っています。

しかしながら、これらの用量をどれくらいの期間で注射したらよいか決まっていません。これらの研究もされていません。

今回ご紹介するレポートは、日本人FTMを対象にした異なった用量、期間で身体的変化にどのような影響があるか、とくに、声の変化、ヒゲ、生理の消失について考察しています。

※世界的な流れとしては、とくにジェンダー先進国ヨーロッパは長期型男性ホルモンが主流です。

しかしながら、日本、アメリカはエナント酸エステル(国内ではエナルモンデポー、テストロンデポーなど)の男性ホルモンで治療されていることが多いです。

この医学論文は2013年に発表された岡山大学で治療されたデータ収集されたレポートです。

対象としたFTM

1998~2008年に岡山大学泌尿器科で男性ホルモン治療していた206人。このうち、138人はホルモン未治療または少なくとも6か月以前にホルモン注射していないFTMを対象としています。

異なった用量または期間で3グループに分け、それぞれのグループに対する身体的変化①声の変化、②ヒゲの変化、③生理の消失の時期について検討。

  • グループA:250㎎を2週間に1回
  • グループB:250㎎を3週間に1回
  • グループC:125㎎を2週間に1回

声が低くなってきたと感じた時期


使う用量によって、変化の違いを生じますが、1カ月以内に声が低く実感できたのは、250㎎を2週間で注射しているひとで、1~6か月で変化を生じる割合はほぼ半々です。

ヒゲが生えてきたと実感できた時期


ヒゲが生えてくる時期は、1~6か月で、50~80%にまで増えています。ヒゲに関しては、250㎎を3週間で治療しているひとは、250㎎で治療しているひとに比べて1~6か月でヒゲが生えてきたと実感したひとが多いことは意外です。

生理が消失した時期

250㎎を2週間で治療した場合は、60%以上のFTMが1カ月以内に生理が消失、250㎎を3週間と125㎎を2週間のグループも治療開始後1カ月以内に半数のひとが生理が消失しています。

次のグラフは、ホルモン治療開始後6カ月の時点でのそれぞれの変化を表しています。

・声の低さ
125、250㎎(2週または3週)で治療していても、6か月の時点では、ほぼ全グループで声が低くなったと実感できています。
・ヒゲの生え方
250㎎を3週間で注射しているひとが、97%でもっとも実感できています。他のグループは70%にとどまっています。
・生理の消失
250㎎を2週間で注射しているひとが96%消失しています。

考察
著者らの知る限り,これは身体的治療効果の開始に関するTRTの最初の用量反応解析である。

FTMにおける男性ホルモン治療の一般的な影響は以下の通りである;声の低音化、顔の毛(ひげ)の増加、月経停止、陰核肥大、腟萎縮、乳房萎縮、筋成長、ニキビ(ざ瘡)、性欲亢進。

①声の低音化,②顔毛の増加および③月経停止の身体的反応が男性ホルモン治療の最も一般的に望まれる臨床効果であるため,これらの身体的変化に焦点を当てた。

本研究では,TRTの3つの用量/頻度を分析した。3つの治療グループ間で患者の年齢と体重に統計的有意差はなかった。

結果は,テストステロンの高用量を受けたグループは、男性ホルモン治療開始1か月後の時点で、これらの身体的変化の開始する割合が多かった。

3つの治療グループでは用量依存的効果があることを示した。一方,6か月の時点では、ほとんどの患者は用量に依存することなく治療効果を達成していた。

男性ホルモン治療の効果は、治療の初期段階では用量依存的であるが,最終的には様々な用量でも、治療の6か月後には希望する効果を達成できるようである。

加えて,この研究のデザインはランダム化されておらず,患者は男性ホルモンの用量を知っていた。この点では、自分が使用する用量の知識が治療効果の評価に影響し、潜在的にバイアスを誘発する可能性があるという本研究の限界がある。

興味深いことに、3グループ間で血清テストステロンの平均値に有意差はなかった。一方、治療開始後一か月で、身体的変化の開始は,最低群(125mg/隔週)と比較して、高用量群(250mg/隔週)でより優勢であった。

これらの結果は、高用量の男性ホルモン投与により血清テストステロン濃度が上昇することを明確に示しているが、これらの所見と以前の報告に基づいて、エナント酸テストステロン筋注の薬物動態図を図に示した。

男性ホルモン投与中の平均血清テストステロン濃度はいずれの男性ホルモン投与群でもほぼ同じであったことから、血清テストステロン濃度もいずれの投与群でもほぼ同じであると考えられた。さらに、テストステロンの最大値は最高用量群(250mg/隔週)と最低用量群(125mg/隔週)とで異なるべきである。

TRTの最初の1か月後に、3つの用量/間隔の間のテストステロン薬物動態のこの違いは,用量依存的な治療効果を生じる可能性がある。

また、TRT期間中の平均テストステロンレベルは、全3群とも男性では正常値と同等であるために、大部分の患者が治療反応を示したと考えられる。そのため、治療開始6カ月後の治療成績に用量依存性の影響がみられなかった理由が説明できる。

血清エストラジオールレベルについては、治療前と比較して有意に低下していた。テストステロンは月経を停止させ,血清エストラジオールを含む女性ホルモンを直接抑制すると考えられている。

3つの処理群の間で平均エストラジオール濃度に有意差はなく,これは血清テストステロン濃度の増加と一致する。本研究で評価した男性ホルモン治療の3つの用量/間隔は、FTMに対して安全で有効であることが示された。

男性ホルモン治療効果の早期開始、1か月後では用量依存性であるが、治療開始後6か月までには用量依存性はなく,3つの用量全てが有効であることを明らかにした。

これらの結果は,迅速な治療反応を達成したい人には,二週間毎の250mgがより高い用量の利点があるが,二週間毎のより低い用量の125mgは,治療開始後六か月以内に同じ結果を達成することができ、治療費を低減することができることを示す。

本研究の観察期間中に有意な副作用はなかったが、長期TRTを受ける患者の副作用を防止するために、二週間毎の高い用量より低い用量の125mgの使用がより良いかもしれない。

しかし、より長い間隔で外来を訪れることを望む患者には、三週間毎の250mgの用量が有用である。このように,本研究により提供された情報は,患者と医師が男性ホルモン治療の最適な初期用量を決定し、長期男性ホルモンの連続投与量を変更することを可能にするのに役立つ。

出典医学論文
Dose-response analysis of testosterone replacement therapy in patients with female to male gender identity disorder
Endocrine Journal 2013,60(3),275-281

自由が丘MCクリニック院長の大谷です


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