性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

GIDの医療ケアに関する研究は、日本ではその情報も乏しいのですが、世界的に見渡すと多くの研究報告がされています。
その1つには家族計画があります。最近では、海外のFTMが一時的に男性ホルモンを中断したのちに妊娠をしたとニュースがありました。
FTMが妊娠して、出産

日本国内では、意外にもほとんどのFTMの性的指向は女性であると思っているひともいるかと思いますし、FTMが妊娠して子どもをもうける話は、現段階ではありえない感じかもしれません。

現状での海外では日本よりもっと先に進んでいるようで、妊娠中、その後の育児ケアに関することまで話が進んでいるのが現状のようです。

今回の海外の医学論文から、FTMの家族計画ならびにFTMの避妊についてご紹介します。

FTMの家族計画の現状

GIDの医療分野は、家族計画に関する研究を含め、急速に拡大し続けています。多くの関心が妊孕性(妊娠できるか?)の温存とFTM個人の育児に向けられています。一方で、FTMにおいては、避妊の必要性にはほとんど注意が払われていません。

今までの研究においては、多くの医師およびFTMは、「無月経の間は妊娠のリスクはない」という認識を持っています。

また、これらの研究では、避妊や妊娠を取り巻くFTMに提供されるカウンセリングの実践が一貫しておらず、その一方で、それを改善するための確固たる臨床的ガイダンスを提供していないことを示しています。

臨床医は、GIDの生殖医療に関する適切な知識が不足しており、その結果、トランスジェンダーの患者を治療することに不安を感じている医師が多いと報告しています。

今回の目的は、これらの今までの研究の知見をまとめ、FTMにおける避妊管理のための包括的な臨床ガイダンスを提供していきます。

以下の項目を理解していきます。
・FTMの計画外妊娠
・FTMに対する男性ホルモンの生理的作用と、無月経時にもなぜ排卵と妊娠が起こるのか?
・性差不快感や性差肯定への影響などの一般的な懸念と利用可能な避妊法とその副作用、およびと一般の女性と比較して、FTMの場合にはどのような影響を与えるのか?
・避妊の必要性および、種類、選択を決定するための避妊カウンセリングとは?

FTMの計画外妊娠

男性ホルモン治療を以前に行っていた、あるいは、現在行っているFTMの計画外の妊娠した頻度に関する複数の研究報告があります。

ある研究では、妊娠を経験した20%の人たちが、男性ホルモン治療を行っていました。さらに、その妊娠する前には、生理が来ていませんでした。

このようなことにもかかわらず、医師を含めたFTMにおいても避妊の必要性に関する知識が欠如していると言えます。

16.4%から31%のFTMは、男性ホルモンが避妊薬の代わりになると信じているようです。

最近の報告によると、FTMの5.4~9%のFTMのひとが、「医師から男性ホルモンは避妊薬の代わりになる」と説明を受けていたと報告しています。

FTMは、医療を受ける際に、他にも多くの課題に直面します。アメリカ国内調査によると、トランスジェンダーの人の1/3が少なくとも1回は拒否され、25%が性同一性に関連したヘルスケアという理由で、医療を拒否されたという調査報告がされています。

これらの障壁にもかかわらず、多くのFTM患者は子宮摘出術と同様に避妊法を行っています。報告されているFTMの避妊実行率は20%から60.1%と大きく異なります。

さらに、FTMの約1/5が子宮摘出術を受けたと報告しており、58%がそれを望んでいます。予定外の妊娠の場合、男性ホルモンによる胎児の奇形のリスク、例えば、陰唇癒合、異常な膣発育、クリトリス肥大を生じる可能性があります。そのため、避妊の予防の重要性がより増します。

男性ホルモンの影響を受けている無月経のFTMが予定外の妊娠をしたにもかかわらず、気が付かずに、妊娠初期にそのまま男性ホルモンを継続すると、胎児の発達に影響を及ぼします。

男性ホルモン治療中のFTMの避妊と生理学

あまり理解されていませんが、男性ホルモン治療しているFTMが妊娠した場合、胎児に対する影響がどのように作用するのか生理学的根拠があります。女性における正常な下垂体―卵巣システムにおいては、妊娠を防ぐために十分な調節する多くのシステムがあります

一般的には、男性ホルモン治療をしていると排卵は起こらないはずだと理解されています。排卵はアンドロゲンの増加によって損なわれますが、それは完全ではありません。

男性ホルモン治療しているFTMの排卵パターンの大規模な研究はありませんが、それに似たような作用をしている病気があります。それを理解すると納得がいくかもしれません。

外部からの男性ホルモンの補充でなく、体内において男性ホルモンが過剰に分泌している「多嚢胞性卵巣症候群」と「先天性副腎過形成」に関するデータがあります。

これらの病気は、血中の男性ホルモン濃度が高くても、自然妊娠が可能です。無排卵は絶対的なものではありません。そして、これらの病気で妊娠した場合、胎児が障害を起こします。

過去の研究 (男性ホルモン治療をしているFTMを含む)では、 高いアンドロゲン(男性ホルモンの総称)でも、女性ホルモンが生産されていることがわかっています。

すなわち、アンドロゲンが体内に十分にあるときでも、黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)レベルの両方に変化が認められるのですが、思春期前のホルモンレベルの抑制ではありません。

このことから、女性ホルモンがある程度分泌され、排卵している可能性があることを示しています。

男性ホルモン治療をしていても、投与ミス、不完全な投薬などによっては、排卵を抑制できない可能性もあります。

生理学的メカニズムに関係なく、男性ホルモン治療をしているFTMでも、月経が来ていなくても排卵しており、したがって避妊を必要とするケースも多々あります。

FTMの避妊方法

男性ホルモン(テストステロン)の影響によっては、避妊が確実にできるかどうかに関する研究は今のところありません。

避妊の方法を下記に挙げます。ホルモン避妊薬は、男性ホルモンによる抑制がされなくても、排卵と妊娠を軽減することができます。

ホルモン避妊薬でない方法

コンドーム、殺精子剤、基礎体温計測、スポンジ、IUD、消毒

ホルモン避妊薬

ピル、経皮パッチ、膣リング、黄体ホルモンなど

プロゲステロンは黄体形成ホルモンを抑制し、子宮内膜内の分泌を促進し、子宮頸管粘液を肥厚させ、卵管輸送時間を延長させます。

男性ホルモン(テストステロン)は、卵管輸送、子宮頸管粘液の変化が直接的にないので優位に働きます。さらに、男性ホルモン治療しているFTMでは、子宮内膜はまだ活性化していることが知られています。

これらの効果は、男性ホルモン(テストステロン)の作用とは無関係に、妊娠に対する防御因子になります。エストロゲンを用いた避妊薬では、エストロゲンはプロゲスチンの効果を増強させます。

男性ホルモン治療しているFTMにおける避妊薬の併用リスクに関する研究は、現在のところ行われていません。

ホルモン避妊薬 (ピルなど)を併用した場合に、その副作用としての静脈血栓塞栓症 (VTE) のリスクの増加に関する研究もなく、安全性は確立されていないのが現状です。

☞参考海外医学論文
「Contraception across the transmasculine spectrum」
American Journal of Obsterics & Gynecology 2019

関連サイト】
FTMのための性生活

男性ホルモンの効果と発現時期

推奨される投与間隔

知っておいた方がよい副作用

男性ホルモン治療のQ&A

男性ホルモン治療の中断したい場合

FTMの男性ホルモン治療について

自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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