性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

性ホルモンと性器の手術は、性欲に影響していると知られていますが、GIDの人たちのホルモン治療と性別適合手術(SRS)の影響に焦点を当てた研究がほとんどありません。

GIDの性欲とホルモン治療、手術の影響

MTF214人、FTM138人を対象に、性欲の頻度、性機能障害の程度、現在の治療の満足度をアンケートの結果です。

MTFのSRS後には62%が性欲が減り、73%が自然な、もしくは反応性の性欲が起きない、または稀にしか起きない。

性機能障害の22%が個人的または人間関係のストレスによるものだといいます。性器形成をしたひとは、していない人に比べるとより性欲を生じました。

FTMの71%は、SRS後に性欲が増しています。30%のFTMは、性欲が全くわかない、39%はときどき、30%はしばしばもしくはいつも。5%の頻度で性機能不全でした。性器形成に満足していないFTMは、性機能障害の頻度が高い傾向です。

ホルモン治療に満足しているGIDは、性機能障害の頻度は低い傾向にあります。性機能障害の頻度は、FTMに比べMTFのひとたちに頻度が多く、MTFのほとんどがSRS後に性欲が落ちます。一方、FTMはその逆です。GIDの性欲は、ホルモン治療と手術の結果の満足度に影響されると考えられます。

男性ホルモンと性欲の関係

性ホルモンは、特に男性については、性欲のような性機能の動機付けの役割をすることが知られています。

多くの研究において、性機能低下している男性に対して男性ホルモンを投与すると性欲が改善してくる(性機能が正常であれば変化しない)と報告されています。

男性ホルモン濃度が生理的基準値以上に高くなったからといって、性欲がより増すということも明らかにはわかっていません。

疫学的研究では、正常女性における性欲は男性ホルモンとの関連性はないとされていますが、他では関連性があるとする報告もあります。

また、性欲に関しての男性ホルモン濃度が減少するとされている経口避妊薬の影響に関しては明らかではありません。

さらに、いくつかの研究では、外科的もしくは自然な閉経した女性に男性ホルモンを補充してもまったく性欲は改善されない報告が多いです。

女性ホルモンと性欲の関係

一般の男女における女性ホルモンによる性欲の影響に関しては、よくわかっていません。

投与された男性ホルモンは、多くの組織内で、女性ホルモン(エストロゲンE2)に変換されます。このことは性欲における男性ホルモンの影響がE2によって調整されているのではないかと推測されています。正常男性で、性欲とE2の関連性を調べた研究がいくつかありますが、明らかな関連性はないと報告しています。

下垂体低下症の男性では、男性ホルモンのネガティブフィードバックによって、E2は重要な役割をしていることが知られています。それは、前立腺がんの治療では、外から女性ホルモンを投与すると、抗男性ホルモンの役割をします。このような場合は、性欲は減少しません。

正常女性においては、E2と性欲の関連性はないとする報告するものがほとんどですが、閉経後の女性にエストロゲンを投与すると、性欲は増加します。しかしながら、エストロゲンの濃度が高いと、性欲が低下するとされています。

GIDは性ホルモンの影響が少し異なる?

MTFでは、男性ホルモンが低下していることで性欲がなく、FTMでは男性ホルモン濃度が高いために性欲を生じるのかもしれません。しかしながら、このような反応はGIDだからかもしれません。

なぜなら、GIDは以前より脳がMTFだと女性脳、FTMは男性脳だからです。
GIDの人たちは、別の性ホルモン治療、豊胸、胸オペ、性器形成を行った結果、性機能の影響が明らかに生じるとも考えられます。

【参考医学文献】
Sexual Desire in Trans Person
J Sex Med 2014;11:107–118
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自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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