性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

【このページのポイント】
・FTMの男性ホルモン治療開始後10年以内に、25%が中等度から重度までの禿げが進行する。ただし、この進行度は、通常の男性より頻度は低い。

・短い期間の男性ホルモン治療だと頭髪はあまり禿げない。

・男性ホルモン治療が長ければ長いほど禿げが進行し、加齢の影響も大きい。

FTM薄毛(禿げてくる)を気になり始めたら…

薄毛の原因は、遺伝的要素が大きいのですが、一番の原因は男性ホルモンです。そのため、FTMも男性と同様に、中年になると頭髪が禿げてくるものです。

FTMにおいては、男性ホルモン治療の最初の1年では、禿げの進展はほとんどありません。ところが、男性ホルモンの治療期間が長くなると、頭髪が薄毛になり禿げてきます。

FTMも例外ではなく、男性ホルモン治療をするため、男性にも個人差があるようにFTMもやはり薄毛になっていきます。

FTMの男性ホルモン治療開始後、どの程度頭髪が禿げるのだろうか?

FTMの禿げに関する報告は、意外にも少なく、SRS前に男性治療を2年間以上(平均9年弱)して、性別適合手術(SRS)を終えたFTM50人に統計を取ったデータがあります。

治療に使われている男性ホルモンはすべて、長期型を使用しています。(注:ヨーロッパでは、短期型男性ホルモンが現在ではほぼ使われていません。)

FTMの薄毛・禿げる形式は、男性と同じように、頭頂がはげてきたり、Mはげになるようにさまざまです。

脱毛症(禿げ)のタイプとその進展度

脱毛症の分類には、Norwood Hamiltonの分類が今でも最も使われています。

女性は、頭髪が全体的に薄くなりますが、男性ホルモン治療をしているFTMは、男性型タイプの薄毛になります。
脱毛(禿げ)の進展度によってスコアをつけて重症度が決まります。

Type I: 生え際には脱毛がない。あっても若干程度。
Type II: 前側面の生え際が、左右対称性に禿げ上がる。いわゆるM禿げ。
Type III: TypeⅡと同様に左右対称に生え際が禿げ、深くなる。一部登頂が薄い場合もある。
以後タイプⅤまで続く。

FTMの禿げの進展度は、男性ホルモン治療期間の長さに関係する

37%のひとが、上記タイプⅠでほとんど剥げません。33%がタイプⅡで、軽度に薄くなります。タイプⅢ以上は31%に見られます。

脱毛症と年齢は関係があり、男性ホルモン治療期間とタイプには関連性がありません。

男性ホルモン治療開始1年では禿げの進展はほとんどないが、長期に男性ホルモン治療を継続すると禿げは進展します。

25%のFTMが10年以内にタイプⅡからⅢまでの禿げに進展します。ただ、幸いなことに、この進展度は、通常の男性の頻度より低いとされ、18~50歳男性の42%がこの程度の禿げに相当します。

短い期間の男性ホルモン治療ではほとんど禿げませんが、男性ホルモン治療が長ければ長いほど禿げが進展する。年を取るごとに禿げの度合いに大きな影響が生じてきます。

FTMは、局所的なテストステロン、エストロゲンの割合が男性と異なるために、禿げの進展を促進をさせない可能性がある。これは、前額部の毛根部のアロマターゼの濃度は、女性は男性に比べ、6倍もあるからだと言われています。FTMにおける長期の男性ホルモン治療となるとまだ不明な点が多いのです。

単純に比較はできませんが、海外の医学論文を読む限り、海外のFTMは日本人より男性ホルモンの期間、容量が多い感じがします。他の薬も、海外の薬は欧米人の規格であるため、日本人の体重を含めた体格からするとかなり異なります。

このことからすると、日本人は、その体型になった容量もしくは期間で治療していくのがベストです。

FTMの薄毛の治療は、ちょっと特殊

薄毛治療の医薬品は、男性を対象にしています。たいてい「女性には使用しないでください」と注意書きがあります。これは、薄毛の進行に男性ホルモンが関係しているために、女性には効果がないこともあるからです。また、妊婦や授乳している女性には、胎児や子どもに影響があるといわれています。

日本国内では、女性を対象にしていないことが背景にあります、
男性の薄毛治療に使われる効果の高い治療薬の1つに、「ミノキシジルMinoxidil」があります。FTMのホルモン治療に支障をきたすことがないメリットがあります。

ただし、飲み薬の場合、頭髪以外の場所も発毛を来すために、腕やすね毛などもうこれ以上生えてきて欲しくないところにも生えてしまうデメリットもあります。国外のくすりを個人輸入で入手し、自己判断で飲むのは避けた方がよいでしょう。実際に副作用で悩んでいる方がたくさんいます。

その他に、飲み薬ではプロペシア(フィナステリドがあります。これは、日本ではプロペシアという商品名で処方することができます。その他に、2016年6月に販売開始された「ザガーロ」があります。プロペシアとほぼ同じ成分になります。プロペシア(フィナステリド)は、男性ホルモンを体内で作られないような作用があります。そのため、男性の飲んでいる人の中には、勃起しにくくなるという症状を生じる方もいます。

FTMの場合は、体内で男性ホルモンが作られていませんが、プロペシア(フィナステリド)はFTMを対象とした研究がありません。FTMの薄毛の治療に対して、男性の標準的に使われる1㎎または5㎎が効果があるかどうか明らかでないので、FTMに使う場合も効果がわからないとされています。

※この記事は2015年に記載したもので、2017年にFTMの薄毛にプロペシア(フィナステリド)を使用した臨床研究が報告されました。下記参照。

男性ホルモンをブロックするため、男性化(体毛が増える、声が低くなる、クリトリスが大きくなるなど)を妨げる可能性もあるかもしれません。

もし、プロペシア(フィナステリド)の飲み薬を飲む場合には、少なくとも、自分が望む男性化がすべて達成された後、男性ホルモン治療を最低2年続けてから治療を始めるとよいとされます。

現在のところ、飲み薬の効果がFTMにとって、どの程度効果があるかわからないので、上記の発毛成分であるミノキシジル、フィナステリドの有効成分が入った塗るタイプの局所的に効く発毛薬が無難かもしれません。

現在、薄毛治療、育毛剤にはいろいろなものが販売されていますが、中には科学的根拠があまりないものもたくさんあります。なんの成分がよいのか悪いのかわからないので、医学的根拠が欲しいところです。

実は、日本皮膚科学会が、薄毛の効果判定を5段階で評価した「診療ガイドライン」を発表しています。1番効果があるとされている成分は、ミノキシジルの外用薬、プロペシア(フィナステリド)になります。
プロペシア(フィナステリド)を使用した臨床研究では、効果があると報告されています。(2017年現在)
FTMのための頭髪の薄毛治療薬

自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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