執筆者:性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

FTMも自身の子どもを欲しいと思っている

最近のいくつかの研究では、FTMの人々は親になることを望んでいるか、少なくともその可能性を維持したいと思っていることが示されています。

広く引用された研究では、FTMの半数以上が子供を持ちたいと考えており、もしその選択肢が利用可能であれば、卵母細胞の凍結を検討しています。

多くの研究では、FTM、MTFの両方の約70%が性転換移行前に妊孕性温存について考えたが、実際に生殖医療を用いて子どもをも受けたのは10%以下です。

興味深いことに、より多くのMTFは養子縁組によって家族を作ることを好み、一方、より多くのFTMは生物学的な子どもを持つことを望み、性交や妊娠によって家族を作ることを希望しています。

性同一性障害のティーンエイジャーを対象とした研究でも、将来の家族形成への欲求が、約半数に存在することが示されていることから、性同一性障害の人も、自身の生殖能力に関しては、シスジェンダーの人(一般人)と同様の関心を持っていると言って差し支えないでしょう。

FTMが夫婦間の子どもを得る方法は、3通り

現状では、下記AIDが現実的です。
1)非配偶者人工授精:AID(
2)体外受精
男性ドナーの精液を使用し、パートナーの卵子と人工授精させる
※パートナーが妊娠して子どもを設けることが一般的ではありますが、FTM自身が妊娠を選択することもできます。(FTMが性別変更せず、結婚していないことが前提)
3)特別養子縁組

1)人工授精(非配偶者AID)

i)パートナーの子宮に、精子を注入
2人とは関係のない精子、または、FTMの血縁者の精子を提供
※生まれた子どもは、嫡出子(実子)として、戸籍に登録されます。
ii)FTMの子宮に、精子を注入
2人とは関係のない精子、または、パートナーの血縁者の精子を提供
※自分の身体で子どもを産むことができますが(海外に多い)、まだ性別適合手術をしていないことが前提になります。仮に、FTMが子どもを産んだ後に、性別適合手術をしたとして、子どもが18歳になるまで性別変更できません。i)が現実的です。

FTMに対する生殖補助医療をする医療機関

提供精子を用いた生殖補助医療に関する登録施設は、日本国内に12か所
日本産婦人科学会生殖補助医療 実施登録機関
宮城県 京野アートクリニック仙台
千葉県 東京歯科大学市川総合病院
東京都 クリニック飯塚
東京都 はらメディカルクリニック
東京都 慶應義塾大学
東京都 京野アートクリニック高輪
新潟県 木戸病院
新潟県 源川産婦人科クリニック
大阪府 西川婦人科内科クリニック
大阪府 イワサレディースクリニックセントマリー不妊センター
福岡県 セントマザー産婦人科医院
鹿児島県 竹内レディースクリニック

これらのうち、FTMに生殖補助医療を実施する施設=0

*2019年までは、慶応大学病院がAIDを実施していたが、ドナー不足のため閉設
*2021年6月 独協大学精子バンク設立:性的マイノリティも対象となる予定ですが、現在未登録です。

精子提供の問題点

現在、SNS上で精子提供を受け、シリンジ法にて挙児を希望するFTMカップルが増加傾向(※中塚 2021)
「性的マイノリティのリプロダクティブ・ヘルス/ライツ」精神科治療学 Vol.31 pp1073-1074

≪医学的リスク≫
・感染症(HIV 肝炎 梅毒 クラミジア等)
・遺伝的疾患

≪社会的リスク≫
・性行為目的
・親権問題
・情報の虚偽(国籍、学歴)など

2)体外受精(IVF)

卵子を取り出し、体外で精子と授精させ、子宮に着床させます。方法は3通りありますが、一般的な方法は、②の方法が選択されます。

①FTMの卵子+精子→FTM自身の子宮に着床
このときの精子は、2人とは関係のない精子、または、パートナーの血縁者の精子

②FTMの卵子+精子→パートナーの子宮に着床
提供を受ける精子は、2人とは関係のない精子、または、パートナーの血縁者の精子
パートナーに産んでもらいたい場合は、理想的な方法です
③パートナーの卵子+精子→パートナーの子宮に着床
提供を受ける精子は、2人とは関係のない精子、または、FTMの血縁者の精子
この方法は、パートナーが高齢または卵子の活性化がない場合で、現実的には、人工授精が適しています。

FTMの生殖医療の問題点

・性別適合手術をしていないことが前提になりますが、FTMが自分の子宮で子どもを産んだ場合は、実子になります。
仮に、生んだ後に性別適合手術しても、性別変更は子どもが未成年のうちはできません。(いずれにしても結婚できないので、現実的ではありません)

現実的には、精子ドナーを用いた人工授精が一般的で、現実的です。

特別養子縁組制度を利用する

特別養子縁組制度


【用語の説明】
Embryo cryopreservation
受精卵の凍結保存は、体外受精や顕微授精で受精・発育した受精卵を凍らせて長期間保存しておく方法です。 受精卵の凍結は、受精卵を特殊な溶液に浸した後、ストローに入れた受精卵を-196℃という超低温の液体窒素に浸して凍結し、保存します。

Oocyte cryopreservation
卵子凍結保存とは、体外受精を行い子宮に戻す目的で、未受精卵を凍結保存する技術のこと。

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自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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