東京オリンピックまで1年を切りました。先日には抽選結果が発表されましたが、応募した方はいかがだったでしょうか?
オリンピック競技というと2004年から条件によっては、gidまたはトラスジェンダーの参加を認めるようになりました。その後も条件が変わってきています。東京オリンピックでは今まで通りなのでしょうか?それとも条件がもっと緩和されるのでしょうか?
今回はトランスジェンダーの観点から見たオリンピックについての題材です。性同一性障害gidとスポーツについての最新情報をお伝えします。
☆トランスジェンダーの人々の大多数は、スポーツ競技やスポーツ関連の身体活動に参加する際に否定的な経験を持っている。
☆トランスジェンダーの女性(またはトランスジェンダーの男性は)がスポーツにおいて運動的優位性を有することを示唆する直接的で一貫した研究はない。(例:MTFが女性競技において優位であるとか)したがって、競技政策の大部分はこの集団に対して差別的である。
トランスジェンダーの人々が競技スポーツにおいてスポーツ上の優位性を持っているかどうかについて何らかの結論を引き出すための研究は限られている。これまでに行われた限られた生理学的研究は、世界中のスポーツ組織によって実施されているトランスジェンダーのスポーツ政策の発展に情報を与えてきた。これらのスポーツ政策は、トランスジェンダーの人々が競技スポーツを体験する際に役立つと思われるが、その多くは否定的である。
トランスジェンダーを含むスポーツ政策
スポーツする上で、トランスジェンダーの競争者を含め、すべての競争者にとって有利にならないように公平性を保つことです。スポーツ政策要件の公平性は、生理学的研究に対して判断されています。主に、異性間ホルモンの投与期間は競技前に2年間以上治療していることです。
オリンピックにおけるトランスジェンダー参加要件
2004年に世界オリンピック機構(IOC)は、思春期以降に性転換したトランスジェンダーの人は、性別適合手術を受け、法的に自分の性を変え、少なくとも2年間の異性間ホルモン治療を受け、同じ期間経験した性で生活していれば、経験してきた性に沿ってスポーツ競技を行うことを認めると発表しました。これは国際的な政策であり、世界中のスポーツ組織で採用されています。
参加要件の欠点
2004年のIOCの政策はトランスジェンダーのスポーツ選手を含めることに取り組んだことで称賛されていますが、いくつかの欠点が指摘されています。
第一に、生殖器の不快感がとくにない、医学的理由もしくは手術中のリスクに対する恐れ、その他の個人的理由のために性別適合手術を受けないことを選択したトランスジェンダーの人々を除外していること。
2004年のIOCの政策にも、性別適合手術を受けていないトランスジェンダーの人々は参加要件に含まれていません。例えば、トランスジェンダーの運動選手は、異性間ホルモン治療をしているかもしれませんが、性別適合手術をまだ受けていないひともいます。
したがって、2004年のIOCの政策は、非常に狭い定義を採用し、大部分のトランスジェンダーを除外しています。これに加えて、この政策はMTF個人のみを念頭に置いて策定されたようであり、おそらく、FTM個人は大多数のスポーツにおいて運動上の利点を有するとは考えられておらず、この政策はFTM個人を差別していると考えられています。さらに、2004年のIOCの政策では、性ホルモンをめぐる地域、国、国際的な違いも考慮されていません。
この方針の中で、なぜスポーツ競技に先立って、ホルモン治療を行うべき期間として2年間を選択したのか?なぜ血中ホルモン濃度の個人差が考慮されないのか?これらについての医学的根拠に基づく理論的な理由も欠如しているように思われます。
MTFにおける男性ホルモン拮抗薬の役割も考慮されていません。2年間という期間の根拠は明確にされていませんが、2004年にIOCがドーピング違反を理由に競技参加を禁止したことと関係があるのかもしれません。性別適合手術に基づく理論的根拠も明らかではありません。運動選手がペニスを持っているか膣を持っているかは関係ないように見えますが、それは身体の生理機能は根本的に変わらないからです。
2016年リオオリンピックの約200日前、IOCはトランスジェンダーの人々に対する競技政策の変更を発表しました。2016年のIOCの新しい政策は、FTM選手が何の制限もなく男性のカテゴリーで競技できることを示唆しています。
MTFアスリートは、少なくとも4年間は女性であると宣言し、競技前の少なくとも12ヵ月間、血中テストステロン濃度が10nmol/L未満であれば、女性のカテゴリーで競技してもよいとされました。
しかし、後者の要件は一般的なガイドラインであり、各個人を検査して、12ヵ月がテストステロン値を適切なレベルに抑制するのに十分な時間であるかどうかを決定しています。もし、MTF選手がこれらの条件を満たさなければ、これらのMTFは男性のカテゴリーで競技することができるとしています。
これは、出産時に割り当てられた性別および血性ホルモンレベルとの個人差を考慮し、経験のある性別カテゴリーで競争するために外科手術の必要性がありませんでした。これは、スポーツ政策における大きな改善でした。しかし、少なくとも12か月間、テストステロンレベルが10nmol/L以下である必要性を支持する証拠は見いだせませんでした。
その他のスポーツ組織の政策
2004年のIOCの政策は、欠陥がいくつか見られるにもかかわらず、他のいくつかのスポーツ組織に採用されています。多くのスポーツ組織が2004年にIOCによる方針を採用しています。
これらのスポーツ組織政策の一つを除く全ての(国際テニス連盟)が国家レベルで採用されています。他のスポーツ組織が2004年IOCの政策を採用したことは、思春期前児童に関する政策の要素にも問題が及びます。英国や他の多くの国のスポーツ組織には適用されません。英国を含む他の多くの国々では、性不一致を呈する小児は、通常思春期が始まる18歳までは性別適合手術を受けることができないのです。
コメント
全体的に見て、トランスジェンダーの人々の大多数は,競技的なスポーツおよびスポーツ関連の身体活動の否定的な経験を持っているようです。スポーツ関連の身体活動にもっと参加できるように改善する必要があるでしょう。
競技スポーツの中では、トランスジェンダーのスポーツ選手は、世界中の多くのスポーツ組織によって、過剰に解釈されているため負の影響を与えてきました。曖昧な生理学的証拠を分析すると、男性ホルモンが潜在的に有利であると認識されるのはMTFのみです。
この医学論文の中では、男性ホルモンがスポーツの優位性の唯一のマーカーであるべきかどうか?または、実際に、それらが運動の優位性の有用なマーカーでさえあるかどうかについて疑問視されています。
身体活動およびスポーツに従事することの精神的および身体的健康上の利益が確立されていることを考えると、トランスジェンダーの人々が経験する障壁は、健康促進を制限しているとも言えます。
トランスジェンダーの人々のスポーツ経験に関する知識を大幅に向上させるためには、今後いくつかの研究分野が必要であり、より包括的なスポーツ政策を策定するための情報を提供し、最も重要なことは、トランスジェンダーの人々の生活を身体的にも心理社会的にも向上させることなのでしょう。
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Sport and Transgender People
Sports Med. 2017 Apr;47(4):701-716.