このたび、「そして夫は、完全な女性になった」みかた (著)の監修をさせていただきました。
以下の点に留意して、コメント記載しました。

・自分がこれまでGiクリニックの医師としてやってきた取り組みや支援
・具体的に書籍に紹介されているような症例も見てきた⇒そういった症例にはどのように対応してきたか。
・今後の課題:医師として不足していた介入があったら記述・今後の取り組み、医療・社会がどのように変容していくことが望まれるかなど

この手記のように、夫の性別違和を知らずに、結婚し、数年~数10年後に突然カミングアウトされるケースは、少なくはありません。

日本では、西欧諸国と比較してMTFよりFTMの受診者の方が多く、その背景には、日本社会はMTFが自己開示して生きにくい社会なのかもしれない(大島)という見解もあります。私のクリニックにも女性と結婚して子どもの成人を機に受診・治療されるMTFの方もいらっしゃいます。日本では、明治以降、性別役割分業が明確になり、性別二元論が定着していった歴史があります。そのような中で男性は男性らしくするように、親からほぼ強要されてきた経緯があります。

海外の研究によると、MTFの発症の時期に関して、MTFの場合に限ると、それは、思春期と成人期に性別違和をそれぞれ強く発症する時期によって、性指向が異なるというのです。それは、前者は男性、後者は女性であるというデータがあります。もちろん、性指向のみで、トランスジェンダーの診断には影響されませんが、中年以降のトランス女性は、男性的身体的嫌悪はあるものの、性指向が女性、きれいな女性への憧れ、女性の体を手に入れたい、女装癖の習慣などが診療を通してその傾向が散見されます。

この点、作者が元夫を通していろいろ調べたりした上での、トランスジェンダーの特徴をよく捉えられていると思います。傍で見てきたからこそわかることだと思います。

手記の中で述べられていた「診断」についてですが、性同一性障害ガイドライン上では2名以上の精神科医師による診断を受けるのですが、作者が記したように、はたして正規な手順を踏んだとしても診断は確実なのか?しばらくしてから結果が出ることも現実にはあります。ある海外研究では、性別変更後に後悔するひともある一定の頻度でいます。FTMは0.1%程度ですが、MTFでは数%の結果も出ています。

また、元夫の性自認は女性ではなく、単に「身体的違和」のみであったのはないかという疑問ですが、実際にこのケースも最近多くなっていると思います。
いまでこそ、自分が男性でも女性でもないというXジェンダー、ノンバイナリーという概念が知られるようになりました。しかし、当事者にとって、身体的な違和のみであった場合、自分が男性か女性のどちらかに属さなければいけないという性別二元論という固定概念が、シスジェンダーのみならず、このようなノンバイナリーにも根づいていると考えられます。そのため、今回のケースでは、女性に属さなければいけないので、女性ホルモン治療、最終的に性別適合手術を決意する経緯に至った可能性も否定できません。

当院でも、性別適合手術後に、「自分は実はノンバイナリーだったのではないか?」という方も実際にいらっしゃいます。「なぜホルモン治療、性別適合手術したのか?」その答えは、別性になるため、結婚する必要があるため・・・と。性別二元論の概念が、私たちシスジェンダーのみならず、ノンバイナリ、トランスジェンダの人たちにも、性別二元論の概念が根づいているからなのかもしれません。

診療時、私はどうしても医師として当事者側の立場で治療を進めるケースが少なくありません。とくに、私も当事者家族に治療や今後の生活について理解を促すことに注力する一方で、家族の感情や考えについて十分に配慮できていなったことに改めて気づきました。
今回、婚姻関係にある当事者のパートナーのエピソードを交えた正直な気持ちを詳細に知ることができた点は、非常に貴重な情報であると感じます。

当事者には、自助グループが多く存在し、当事者同士の情報交換や経験の共有、社会的なつながりを持つことができますが、その当事者をケアする家族へのサポートする体制は整っていないのが現状です。今後は、当事者の家族のケアをどこで相談するのかなど課題になってきます。

ほとんどが当事者側からの立場での考えになります。しかし、その当事者の家族のサポートはどうなのか?実際には、あまり触れられることはそう多くないでしょう。当事者の希望とその家族の受け入れ態勢の整合性をどう考えるか、今一度考える必要がありそうです。

婚姻関係にある当事者、とくにパートナーの声は、意外にも聞こえてきません。

若年者のFTMの場合には、両親に受け入れられない場合、治療がなかなか進みません。そのため、理解していただき受け入れてもらえるようご両親に今のご本人の現状を説明してきました。この場合は、ご両親と本人の問題です

しかし、さらなる問題は、すでに婚姻関係のある今回のケースです。まさしく、今回の○○さんのケースです。親子の場合は両親も同時に来院することも多いのですが、婚姻関係にある相手は意外に来院しないことが多く、単に「パートナーは納得しているのか?」など聞く程度で済まされる傾向にありました。
診療をしているとどうしても当事者側の立場で物事を進めるケースが少なくありません。とくに、私も家族に理解してもらうことばかりに注力して、家族の思いはどうなのか?十分に考えに至らないと改めて思いました。
婚姻関係にある当事者のパートナーのエピソードを交えた正直な気持ちを紙面通してですが、かなり詳細に知れたのはたいへん貴重に感じます。

性別違和の当事者の家族は、本人をサポートすることはとても重要なことです。また家族が一体となって支援することで、当事者が安心して自分らしく生きることができる環境を作ることが大切です。

これは、あくまでも当事者側からの立場での考えになります。しかし、その当事者の家族のサポートはどうなのか?実際には、あまり触れられることはそう多くないでしょう。その陰にパートーナがいることも忘れてはなりません。

自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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【医師 大谷伸久の経歴】
平成6年北里大学医学部卒業(医籍登録362489号)
国立国際医療センター、北里大学病院、順天堂大学医学部研究員などを経て、
平成20年:自由が丘MCクリニック開業

GID(性同一性障害)学会認定医、テストステロン治療認定医