これらの用語は、トランスジェンダーの人々の経験や課題を理解する上で重要です。
【基本的な用語】
性同一性障害:身体的性別と性自認(ジェンダー・アイデンティティー)が一致しない状態。
性別違和:出生時に割り当てられた性別と、自身が体験または認識する性別(ジェンダー)との間に顕著な不一致がある状態。
性別不合:WHO(世界保健機関)のICD-11では「性別不合」と呼ばれ、精神疾患ではなく「性の健康に関する状態」に分類されている。アメリカ精神医学会のDSM-5-TRでは「性別違和」として診断される。
トランスジェンダー(transgender):出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認を持つ個人を指す包括的な用語です(American Psychological Association, 2015)。すべてのトランスジェンダーが二元的なアイデンティティを持つわけではありません。
まず最初にトランスジェンダーのアイデンティティの移行について確認してみましょう。通常、トランスジェンダーのアイデンティティの発展は、出生時に割り当てられた性別から、男性または女性のアイデンティティへの移行を伴う「線形」の経路をたどります。線形とは、例えば、男性から女性へのトランスジェンダーの場合、彼らは一貫して「男性から女性」へと移行し、その移行が一連のステップとして進行します。図に表すと次のようになります。
シスジェンダー(cis-gender):出生時に割り当てられた性別と性自認が一致する人
トランス男性(trans men):出生時に女性とされ、男性の性自認を持つ人
トランス女性(trans women):出生時に男性とされ、女性の性自認を持つ人
TGD:トランスジェンダーおよびジェンダー多様性を言い、個人の性別認識やジェンダー表現が出生時に割り当てられた性別と異なることを指す広範な概念です。
ノンバイナリー(binary)/Xジェンダー:正式には、同一用語ではないが、男女二元論に当てはまらない性自認を持つ人。男性/女性の規範的カテゴリーに属さない性別アイデンティティを持つ個人を指します。完全に男性的でも女性的でもない性別を持ち、その性別アイデンティティは性別の二元論を超え、性別間を揺れ動いたり、性別の二元論を拒否したりします(Monro, 2019)。
トランスジェンダーのアイデンティティの移行が分かった上で、一方、ノンバイナリーのアイデンティティの移行は「非線形」であり、より柔軟です。これは、ノンバイナリーの人々が特定の性別アイデンティティに至るのではなく、ジェンダーのスペクトラムを自由に行き来したり、自分のアイデンティティを時と場合によって変えたりすることを意味します。例えば、ある時は「男性」に近い感じがすることもあれば、また別の時は「女性」に近い感じがする、あるいはそのどちらでもないと感じることがあります。
この例でわかるように、線形の経路は始まりから終わりまで一定の方向性を持ちますが、非線形の経路は様々な方向に進んでいくことが特徴です。ノンバイナリーの人々は、ジェンダーアイデンティティの変化を受け入れ、自分にとって最も自然な状態を選ぶ自由があります。
☞ノンバイナリーの健康
性自認:自らの性別をどのように認知しているか?
性指向:性行動、性的関心、性的興奮の対象としての性別を指す言葉で、それが異性に向かうときは異性愛、同性に向かうときは同性愛、両性のときは同性愛と呼ぶ。
AMAB/AFAB:AMAB:出生時に男性と割り当てられた(Assigned Male At Birth)、AFAB:出生時に女性と割り当てられた(Assigned Female At Birth)。見た目の体の特徴に基づいて、出生時に「男」または「女」と決められることを指す。性自認との関係では、「男」や「女」というラベルは性自認を表すものではない。
性自認は内面的な感覚であり、「自分は男性、女性、それともどちらでもない」と感じる心の在り方を指す。
MTF(男性から女性へ)、FTM(女性から男性へ)が使われていたが、「性別を変える」というニュアンスが含まれるため再評価されている。
☞AMAB/AFABとは?
【医療・法律関連】
性別適合手術(SRS):外性器の再形成や性腺切除などを行う手術
ホルモン療法:男性化・女性化を促すホルモン剤を投与する治療法
性同一性障害特例法:戸籍の性別変更の要件を定める法律
【その他の用語】
カミングアウト:自身が性的少数者であることを自ら開示すること
パス:トランスジェンダーの人が自認する性別として認識されること
ミスジェンダリング:ある人を間違った性別で扱うこと
アウティング:他人の性的指向や性自認を本人の同意なく暴露すること