女性へ性別変更後に次女が出生、父子関係認める最高裁の初判断

性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

性同一性障害特例法に基づいて男性から性別変更した女性が、自身の凍結精子で生まれた次女を認知できるか?

最高裁は、「認知できる」との初判断を示しました。

親子関係を否定した二審・東京高裁判決を破棄し、父と子としての「法的な関係」を認める判決を言い渡しました。
生物学上の父親が、性別変更後に子をもうけた場合の法律上の親子関係について、最高裁が判断を示すのは初めてです。裁判官4人全員一致の判断。親から養育や扶養を受ける権利や相続権といった「子の福祉」の保障を重視した判決です。

<経緯>
40代女性は2018年冬に男性から性別を変更。性別変更前に自身の凍結精子でパートナーが長女を出産し、性別変更した後の20年にやはり凍結精子で次女が生まれた。
40代女性は子2人の父だとする認知届を自治体に出した。しかし受理されなかったため、子2人が40代女性に認知するよう求める訴訟を起こした。

<裁判の途中結果>
1審・東京家裁判決(22年2月)は、女性とみなされる人を父だとすることは現行法と整合しないとして長女、次女のいずれも認知できないとしました。

これに対し、2審・東京高裁判決(22年8月)は、長女の出生時に40代女性の戸籍が男性だったことから、長女については40代女性が認知できると判断しました。

一方で、次女の出生時には40代女性が既に女性に性別を変更していたため、40代女性を父とすることは認められないとした。子2人に対する父子関係の判断が分かれたため、次女のみが最高裁に上告しました。

性別変更を認める上で「未成年の子どもがいない」ことを求める特例法の規定も戸籍上の性別が女性の場合に父子関係を認めない理由にはならないとしました。民法の規定にも父子関係の形成を妨げる根拠はないとして、生物学上の父であれば認知を求められると結論付けています。

今回の判決は未成年の子どもがいる状態での「女性の父」を容認した形で、特例法の性別変更を認める要件の妥当性を巡る議論に影響を与える可能性もあるでしょう。
【法律関連】
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