【はじめに】
一般的に、性欲を司っているのは、男性ホルモンが主体とされています。そのため、睾丸摘出(去勢)すると自ずと性欲が消失するというものです。しかしながら、診療をしていると、ほとんどの人が消失するのですが、一部のひとには、すぐに消失しない場合も見受けられます。その原因がなぜなのか調べてみましたが、去勢(睾丸摘出)後の研究は、現在ではほぼ研究がされておりません。そのため、なにぶん、かなり古い医学論文からの参考としました。
性欲は主に男性ホルモンによって制御されるとされ、睾丸摘出(去勢)は性欲を大幅に減少させると考えられています。しかし、去勢後も性欲が完全に消失しないケースが存在します。研究によれば、性的行動の変化はホルモン的要因だけでなく、心理的態度や経験的要因にも影響されます。また、副腎からのアンドロゲン分泌が性欲を補う場合もあります。さらに、去勢の年齢が性的行動に与える影響は大きく、特に45歳以降でその効果が顕著です。これらの結果から、去勢の効果は個人差が大きく、性欲抑制の手段として一律に適用することは困難であると示唆されています。
睾丸摘出による期待される効果
睾丸摘出によって、性交と自慰行為の割合、性的思考の頻度、性的欲求の程度、性的興奮の程度が大幅に減少します。
従来の研究では、被験者による性的行動に関する自己報告によりデータ取りをしていて、信頼性と妥当性には疑問があるかもしれませんが、一貫した差異が見られたため、回答者の報告が応答バイアスや偽装傾向を反映している可能性は低いと考えられます。
そのため、去勢者の性的機能能力の低下は顕著であるようです。ただし、これらの変化がホルモン的、心理的、またはその両方の影響によるものかは不明です。
睾丸摘出によりすぐに性欲なくなるか?
しかし、睾丸摘出した男性の性的反応が従来考えられていたよりも多様である。去勢後すぐに男性の性的能力が消失するというのは神話である可能性があります。
ある研究では、睾丸摘出後、すぐに性的能力が消失(41%)しましたが、性的活動が完全に消失した割合は以前の研究よりも少ないことが示されています。これは、一部の被験者が抗アンドロゲン剤(シプロテロン酢酸塩)を同時に使用していたと報告されています。
睾丸摘出後も性的に活発になるケース
摘出後一時的に性欲の程度がまれに変わらないことがあります。
考えられる理由いくつかあります。
①一般的に切断後に神経終末の変化により持続的な感覚が生じることを指摘されています。この感覚が精索神経の刺激を引き起こし、他の性器への反射作用を通じて性的思考や性欲を増加させる可能性があります(Hammond,1934)。
②アンドロゲンによって感作された中枢興奮機構が、精巣ホルモンが取り除かれた後も一定期間興奮状態を維持する可能性があると主張しています(Beach,1944)。
③男性の性欲に対する去勢の影響が主に去勢に対する心理的態度に依存すること(Ford,1951)。
④副腎からのアンドロゲン分泌が精巣のアンドロゲン欠乏を補っている(Altwein,1975)。
(例:前立腺がんを患う去勢された性犯罪者の血漿テストステロン値が正常範囲の上限にあった)
⑤性的行動の表現は、生物学的な衝動や本能によって制御されるのではなく、主に経験的要因によって決定されるとされています(Whalen, 1966)。
また、これらの他に、一度性的行動のパターンが確立されると、去勢によって根本的に破壊されることはあまりないという考えもあります。
これは、去勢の年齢に関しては、46歳から59歳の男性に手術が行われた場合、性的行動に強い影響があることがわかりました。30歳以上での去勢のみが性欲の急速な消失を期待でき、26歳から45歳の間に去勢された場合、性的能力が急速に消失すると結論付けています。一般的に、去勢の影響は去勢年齢が高いほど強くなる傾向がありますが、それはおおよそ45歳以降に限られます(Bremer ,1959)。
【参考にした医学論文】
・「Sexual behavior of castrated sex offenders」Volume 10, pages 11–19, (1981)
・「The Impact of Surgical Castration on Sexual Recidivism Risk Among Sexually Violent Predatory Offenders」March 2005, 33 (1) 16-36
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