睾丸摘出の適応
睾丸を摘出すると、男性機能、性欲などが衰えます。
睾丸摘出は、トランスジェンダーの方はもちろんのこと、男性的機能を閉ざす役割もあります。
性別不合(GI)の方は、診断書が必要となります。
諸事情で、性欲を抑えたい場合もご相談ください。
・勃起するのが嫌 ・過去に性犯罪を犯したことがある ・浮気性が治らない ・DV(家庭内暴力)
・性犯罪再犯防止など
これらの場合には、睾丸摘出すると元に戻せないので手術する利益がその他を上回るときに行わなければなりません。
来院時には、十分に手術後のデメリットをお話します。
睾丸摘出の医学的背景と身体への影響
睾丸は、男性ホルモン(主にテストステロン)を分泌し、精子を生成する重要な器官です。睾丸を摘出すると、これらの機能が停止し、身体にさまざまな影響が生じます。
また、睾丸を片方だけ摘出しても、残った睾丸が機能を代償するので、ホルモンの値、症状などは変化しません。
1. ホルモン分泌の変化
睾丸摘出後、テストステロンの分泌が大幅に低下します。テストステロンは、筋肉量の維持や骨密度、性欲、体毛の成長などに関与するため、その減少は以下のような影響を引き起こします。
*性欲の低下: 多くの人が性欲の減退を経験します。
*筋力の低下: テストステロンが筋肉の維持を助けるため、減少すると筋肉量が減りやすくなります。
*骨密度の低下(骨粗鬆症のリスク): テストステロンの減少により、骨密度が下がるため、骨折しやすくなる可能性があります。すぐには症状はでません。また、絶対なるというわけではありません。
今後心配であれば、整形外科で骨密度を測るとよいでしょう。
若いうちは平気かもしれませんが、中年以降は注意が必要です。
*脂肪の増加: 基礎代謝が低下し、脂肪がつきやすくなります。
*うつや不安の増加: ホルモンバランスの変化により、精神的な不安定さを感じることがあります。
2. 身体の変化
睾丸摘出後の身体的変化は個人差がありますが、主に以下のような症状が見られます。
*陰嚢は時間とともに縮む傾向がある。
*皮膚の質感が変わり、乾燥しやすくなる。
*体毛が減少する場合がある。一方では、頭髪の薄毛防止にもなる。
*体温調節が変化し、発汗量が変わることもある。
3. 性機能への影響
睾丸摘出後、精子の生成は停止し、不妊状態になります。また、勃起障害が起きます。性行為が困難になります。ただし、バイアグラ等ED薬でも改善することはできませんが、テストステロン補充療法を行うことで、ある程度回復することもあります。(場合によっては、本末転倒になる場合もありますが)
・精子は作られませんが、原則勃起障害のため、射精が困難になります。
・摘出後しばらくは勃起することもありますが、男性ホルモンが断たれているので、時間が経つとともに勃起しにくくなります。
・勃起させ、射精ができれば精液は若干でます(精液の半分以上は、前立腺でつくられるからです。)
4. 睾丸摘出とホルモン補充療法
万が一のため、睾丸摘出後のテストステロン不足を補うこともできますが、特に、骨密度低下や筋力維持のためには女性ホルモン補充が必要になることもあります。ホルモン補充には、筋肉注射、塗り薬、パッチ型などの方法があります。
5. 精神的・社会的影響
睾丸摘出は身体的な影響だけでなく、精神的・社会的な変化も伴います。
*アイデンティティの変化: MTFの場合は、性別適合手術の一部として行う場合、新たな自己認識の形成につながります。
性欲が低下するため、これらにまつわる不都合が減少します。
*心理的変化: ホルモン変化により、気分の変化やストレスを感じることがあります。
まとめ
睾丸摘出は、ホルモンバランスを大きく変化させ、身体・精神・社会的に大きな影響を与える手術です。
・いわゆる男性更年期障害として、不安、いらいら、うつ、筋力低下、疲労感などは起こりえます。
・陰嚢(ふくろ)は、年数とともに縮む傾向にあります。
そのため、数年後性転換手術SRSを行う予定の場合、陰部に使う皮膚が少なくなることもあります。
気にしていることがあればお知らせください。
睾丸摘出の手術方法
一般的に睾丸は、①陰のう(いわゆる袋)から摘出します。
・傷口は1か所(約3cm弱)で済みます。
・精索(睾丸とくっつている動脈、静脈、精管(精子の通り道))の断端が触れること。通常でも、よく触ると索状物が触れるのがわかります。
男性化を絶つという目的だけであれば、触れようが触れまいが関係ないという人がほとんどです。
ただし、どうしても触れたくないという人のために陰嚢からではなく、鼠径部(足の付け根付近)からの手術も可能です。
②鼠径部からの摘出
・メリットとして、陰のうから断端がほぼ触れることはない。
・デメリットは、ソ径部(陰毛がはいている両端)を左右それぞれに約3cmのキズができること。
ただし、数か月経つとわかりにくい場所でもあります。
費用は、陰のう部より摘出するより高くなります。
睾丸摘出時の麻酔方法
陰嚢から睾丸摘出時の麻酔
全身麻酔で行うため、手術中不快、痛みを感じることはありません。
※手術時間は約60分です。
キズは1か所のみ。抜糸する必要がない糸で縫います。
下腹部から睾丸摘出を行う場合の麻酔
硬膜外麻酔と全身麻酔を併用して行います。
硬膜外麻酔をする理由は、術後の痛みが少なくて済むからです。
<麻酔方法の補足>
睾丸摘出は、基本的に局所麻酔のみで行うことができる手術ですが、よくネット上では「かなり痛くてたいへんだった」という感想がいくつかあります。
確かに、麻酔をするときは、浸みるような痛みを生じるのですが、その後は個人差はありますが、あまり痛くないと思います。麻酔の注入方法にコツがあり、たいてい痛がる場所は決まっていますので、そのコツさえ知っていれば、大丈夫なはずなのですが・・・。
術前に少しリラックスする筋肉注射をすることもできます。
まとめると、麻酔には次の方法があります。
・睾丸の局所麻酔のみ・睾丸の局所麻酔+笑気麻酔(酸素と軽いガス麻酔です)
・睾丸の局所麻酔+筋肉注射・睾丸の局所麻酔+筋肉注射+笑気麻酔のバリエーションで選択できます。
上記費用は、追加料金なくできます。
どのような状態で行いたいのかお聞きして決めますが、手術中まったく意識ない状態で行うことをお勧めいたします。
睾丸摘出後の注意点
短期
術後2日間圧迫固定となります。手術終了後、陰のうをテープで巻きます。
2日後(48時間後)にご本人がその圧迫を取ります。こわくないです。
圧迫を取り除いたのちシャワー可、1週後より特に問題なければ入浴可とします。
糸はそのうちぽろぽろ取れていきますが、どうしても気になる場合は来院していただければ取り除きます。(術後1週間後以降)
長期的展望
睾丸摘出後、男性ホルモンが絶たれるのですが、一方では、体内に「性ホルモン」がなくなります。
睾丸摘出後に、MTFであれば女性ホルモンを続けて補充するからいいのですが、まったく補充しないとなると、将来的に「骨粗鬆症」のリスクが増えます。
<遠方の方>
当日そのまま帰ることはできますが、心配な方は近隣ホテル(ご紹介します)に泊まっていただき、翌日問題なければ帰宅という選択もあります。
<料金>
330,000円(陰嚢から)
※静脈麻酔をご希望の方は、5,000円追加となります。
660,000円(下腹部から)
※下腹部からの場合の麻酔は、硬膜外麻酔+静脈麻酔となります。
(麻酔込みの費用となります)
【関連記事】
☞MTFの陰嚢切除
☞MTFの睾丸摘出の体験談
☞MTFの一般的な治療
☞性欲と睾丸摘出との関係
☞MTF豊胸手術についての4つのポイント