胸オペとは?

性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

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胸オペの正式名称は?

FTMの人たちの間で、胸を平らにする手術の通称名として使われるようになった語句です。
正式名称は、乳腺摘出、乳房切除のことをいい、かなり大きいひとに行う乳房切断もその1つです。

語句からすると、そのままの意味では、「胸のオペ」になります。ところが、胸のオペというとその目的がいろいろあり、たくさんの手術の種類があります。

一般的には、乳がんの手術などがまず頭に浮かぶかもしれませんし、女性が胸を大きくするための豊胸手術も「胸オペ」に変わりがありません。

特にここで言う「胸オペ」は、性別不合、トランスジェンダーの当事者の人たちが、乳腺摘出、乳房切除、乳房摘出に関して使う俗語です。性別適合手術の1つで、性別変更までの過程でほとんどの人が最初に行う手術とされています。

海外では、上部の手術ということで、Top Surgery(トップ・サージャリー)とも呼ばれています。卵巣切除や陰茎形成などは、bottom Surgery(ボトム・サージャリー)と呼んでいます。

手術する目的は?

胸オペ(乳腺摘出手術)は、FTMやFTXの方が胸の膨らみをなくし、より男性的な胸部の形状を得るための手術です。

対象者は?

特に胸に身体的違和感を持つFTMやFTXの方です。FTM、FTXだからと言って、必ずしもすべてのひとが望むわけではありません。

手術方法は?

胸のたるみ、胸のサイズや皮膚の弾力性によって適した術式が選択されます。術式によって傷跡の大きさが異なり、特に皮膚のたるみが強い場合は乳輪の移動が必要になることがあります。適切な手術方法を選ぶことで、より自然な仕上がりが得られます
・下垂がない場合は、乳輪下半周を切開するU字切開して、そこから乳腺を摘出します。
・下垂がある場合は、乳房切除と同時に、乳頭乳輪を移動をする必要があります。

胸オペは、男性化への第一歩

FTMの男性化するための身体的治療は、男性ホルモン治療、手術治療となります。手術治療は、FTMだと、ほとんど最初に行うのが胸オペです。その後必要によって性別適合手術と順に進みます。

そもそもなぜ胸を取る必要があるのでしょう?
FTM当事者にとっての自分のボディーイメージで、もっとも気になる場所は、胸、乳房ということになります。

診断を受け、男性ホルモン治療から始めているひとにとっては、せっかく声も低くなったりして、男性化しているのに・・・。

見た目は男性的になったのに、胸だけ膨らんでいると毎日ナベシャツはつらいし、なにかと日々のストレスを感じてしまうものです。

一方、FTM、FTXの一部の人、性別違和を感じる人たちにとって、必ずにも男性ホルモン治療を受けるわけではありません。ただ、やはり胸には違和感を感じるひとは多いようです。 胸、乳房のふくらみは、やはり「女性」を象徴する身体の場所にほかならないからでしょう。

FTMのひとは、手術することにより、身体に対するボディーイメージもかなり変わりますし、満足度もかなり高くなります。もちろん、それ以外にも生活の質(QOL)もかなり改善します。

胸オペは、FTMのための男性化に必須?

性別不合、性別違和を理由とする乳房切除、胸部の手術は、一般的な他の手術とは異なり、単なる選択肢のひとつではありません。

一般的な手術は、受診者と外科医の間で、各手術方法のメリット、デメリットなどについて話し合い、お互いに同意のものに契約に基づいて行われるものです。

一方、性別不合、性別違和に対する乳房切除、乳腺摘出、胸部手術というのは、FTM当事者にとって、男性化にも医学的にも必要な治療であり、これらの背景を十分に理解している医師による評価が行われて初めて行われるものです。
胸オペによる男性化

胸オペ手術は、その評価が実施された事実、およびある特定の外科的治療をうける条件が満たされていることを性同一性障害gidなどのジェンダー医療に精通している医師によって、初めて実施されるのが望ましいでしょう。

もちろん、それにFTM当事者自身が、もとに戻らない身体である手術であるということも十分に理解する必要があります。

胸オペは美容整形手術か?

一般的な乳がんなどで変形した欠損した乳房を美容的に再建する形成外科の手術、または、性同一性障害gidに関する胸オペや性別適合手術でも、純粋に再建的なものと美容的なものとは、明確な区別はありません。

ほとんどの形成外科的手術は、実際のところ、再建的要素と美容的要素の両方がミックスしています。

美容整形手術は、一般的には、医学的な必要性がないものと考えられています。

この手術が純粋な美容目的とは言えないという点については、異論はないでしょう。

胸オペをしても、からだに影響はない?

もちろん、手術を慎重に行ってもらうことが前提になりますが、万が一、術後に、やはり女性に戻りたいとなっても、身体的に、もしくは、生理的にからだがおかしくなることはないので、ホルモンバランスが崩れることもなく、体調がすぐれないなんてこともありません。

ただ1つ言えるのは、誤解を恐れず言うと、もともと胸がほとんどない女性になってしまうというところです。外見的に胸がまったくない「まな板」状態であることです。

このように考えると、胸オペは、次にあげる要素が強いです。

・美容的要素がつよい
☞一般女性にも胸が大きくて苦痛なので、小さくしたいひともいますので、同じように考えれば診断書は必要ないのでは?とも考えられます。

・生殖能力に関係しない。
☞胸がまったくなくても、妊娠が可能。ホルモンバランスを崩して、体調が悪くなることもない。

・体内のホルモン分泌に影響を受けない
☞ホルモンの影響を受ける器官(普段は女性ホルモンが作用して、生理の前後で胸が張ったり、痛くなることはある)。ただし、胸部内の乳腺はホルモンを分泌する器官ではないので、ホルモンバランスの影響を一切受けない。

いろいろなオペ方法

1)手術方法
FTMが行う胸オペには、いろいろな方法が考えられています。

基本になる手術は、胸が大きすぎる女性がもう少し小さくする乳房縮小手術です。

この手術と大きく違うのは、乳房を少し小さくするのではなく、真っ平にすることなので、それに対する難関が待ち構えています。

乳腺を少し残せるのであればよいのですが、基本的にはFTMの場合、すべての乳腺を取り除き、さらに胸を平らにするために余った皮膚も取り除く必要があるので、オペはさらに難しくなります。

乳腺をすべて取り除くと、乳輪と乳頭に行く血行が断たれるため、この血行を維持する手術方法を考えなければいけません。

2)胸オペの種類
手術の種類はいくつかありますが、胸の下垂、大きさなどで手術方法を決めます。
下のイラストのさまざまな下垂状態によって手術方法を決めていきます。

大きく分けると胸オペは、次の方法の1つから選択することになります。

  • U字切開(半周切開)
  • ドーナツ切開(乳輪全周切開)
  • アンダー切開(乳頭・乳輪移植含む)

たるみがある場合の胸オペは、どんな方法があるのでしょう?
胸がそれほど大きくはなく、たるみもなければ、男性化した平らな胸になるでしょう。大きくて下垂している場合は、乳腺だけ取り除いても、男性化の真っ平らな胸になるわけではありません。

乳房が手術前から下垂していると、乳腺だけ取り除いても、余った皮膚が生じてしまいます。この余った皮膚をどうするかによって、胸オペの手術方法が変わってきます。

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