胸オペは、FTMのための男性化胸部再建で、乳房切除術の中の1つの方法です。
QOL(生活の質)が向上するとされていますが、安全性に関する研究がほとんどありません。その他の乳房切除、とくに、シスジェンダー患者における乳がん予防の乳腺摘出および男性の女性化乳房のための乳房切除術後の成績と比較することにより、それぞれの安全性を検討した報告があります。
参考)Mastectomy in Transgender and Cisgender Patients: A Comparative Analysis of Epidemiology and Postoperative Outcomes
Plast Reconstr Surg Glob Open. 2019
乳房摘出手術による違い
FTMの胸オペ、乳がん軽減手術、女性化乳房治療の3つの適応症の乳房切除術術後の経過はすべて良好で、全体の合併症率は4%弱です。これは、2~33%術後合併症率を報告したいくつかの過去の研究から予想されたよりも低いものです。
一方、乳がん予防的乳房切除術を受けた症例では、術後合併症率がかなり高く、約10%の患者が少なくとも1つの全原因の合併症を経験していました。積極的な剥離や乳房組織の除去は、乳房切除時の皮膚を危険にさらす可能性があり、合併症率の高さを説明することができます。
胸オペ特有の合併症
胸オペはその他の乳房摘出と異なり、手術方法が特殊です。とくに、より傷跡の小さい手術方法を選択すると、以下に記しているように手術視野が狭く、操作しづらい点です。
参考)Chest-wall contouring surgery in female-to-male transsexuals: a new algorithm. Plast Reconstr Surg. 2008;121:849–859
註)乳房切除術全体としては、4%程度に合併症が認められますが、その中でも男性化の胸オペで合併症が最も多く、その原因は血腫によるものが最も多く全例の1~2%です。一方、術後30日以内に血腫が発生したのは、乳がん予防手術では0.4%、女性化乳房では0.9%です。
注目すべきは、さまざまな技術に関する論文では、男性化胸部再建における血腫形成の割合が4.5%~33%であると報告されています。より多くの数があれば、この割合の差は、必ずしも臨床的に有意ではないにしても、統計的に有意である可能性があると考えられています。
もしそうであれば、それはFTMの胸部再建に用いられる方法の違いによるものかもしれません。多くの著者が、U字切開や経皮的アプローチは、手術の視野が狭く、露出度の低い手技では血腫のリスクが高まることを示唆しています。
胸オペの手術方法による違い
胸オペの手術方法は、大きく分けると①乳輪辺縁の下半周を切開する方法(U字切開)と②乳房下に横長の切開をする方法(乳房下切開)です。
多くの研究報告では、全原因の合併症の発生率はこの2種類の手術方法で統計的な差はなく、U字切開を受けた症例の3.4%、U字切開を受けなかった症例の5.6%が全原因の合併症になります。
参考)Masculinizing top surgery: a systematic review of techniques and outcomes. Ann Plast Surg. 2018;80:679–683.
註)多くの著者が、皮膚切除術(乳房下切開)と比較して、皮膚温存術(U字切開や経皮状)では合併症が増加する傾向にあることを示唆していますが、これは皮膚温存術では、手術の視野が狭いため、露出の機会が少ないことが原因であると考えられています。
また、U字切開を使用しなかった群(5.6%)に比べて、U字切開を使用した群(3.4%)では、全原因の合併症の発生率が低いことがわかったが、この結果は統計的に有意ではありません。よって、乳房切除術と乳房縮小術の間に合併症のリスクの差はないと考えてよいでしょう。
男性ホルモンによる胸オペへの影響
過去の研究から、外因性テストステロンは手術のリスクに関係しないと考えられています。
参考)Female-to-male transgender chest reconstruction: a large consecutive, single-surgeon experience. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2012;65(6):711-719.
註)男性ホルモン治療をしている88名のFTMを対象とした前向きコホート研究では、男性ホルモン治療しているFTMは、していない人に比べて、胸オペ後に血種を経験する可能性が高かったのですが、その差は統計学的には有意差がありませんでした。
以上のことから、FTMの乳房切除術(胸オペ)は安全な手術であることを示しており、人口統計学的特性と併存する危険因子の違いを調整した後の全原因の合併症率は4.7%であり、シスジェンダーの男女の乳房切除術と同様の結果です。
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