FTMと乳がん、そして胸オペの影響

FTMの男性ホルモン治療、胸オペ、乳房切除後も乳がんリスクはゼロにはなりません。遺伝子変異や残存乳腺組織により発症する可能性があります。胸オペ前後の検査については個別のリスク評価が重要です。

性別不合(GI)学会認定医 大谷伸久

はじめに
FTMの乳房切除後も乳がんリスクが完全にゼロになるわけではないため、個別のリスク評価が重要です。

家族歴やホルモン治療の有無によってリスクが異なるため、医師と相談しながら適切な検診やフォローアップを行うことが推奨されます。

特に、遺伝子変異のある人は、手術前の遺伝子検査を受けることで適切な手術法の選択が可能になります。

胸オペ後の乳がん検診についても、残存乳腺組織がある場合は医療機関と相談の上、マンモグラフィーやMRIによる定期検診を検討することが望ましいです。

乳房切除と性別適合手術(SRS:子宮卵巣摘出)を受け、ホルモン治療として男性ホルモンを投与されているにもかかわらず、まれではありますが、乳がんの可能性が消えたわけではありません。

一見すると、乳房切除と性別適合手術は、男性ホルモン治療することにより女性ホルモン(エストロゲン)を抑制することで乳がんのリスクを減らすと従来より報告されています。

しかしながら、FTMに乳がんが発生したという報告もあります。残存乳腺組織から乳がんが発生する可能性があります。男性ホルモン治療が乳がんの発生を下げるという医学的エビデンスは不足しています。

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平均的な乳がんリスクをFTMの乳がん検診

胸オペを受けていない場合、乳がんのリスクは一般女性(シスジェンダー女性)と同程度です。そのため、シスジェンダー女性向けの標準的な乳がん検診のガイドラインに従うことが推奨されています。

乳がんリスクが高いFTMの乳がん検診

乳がんのリスクが高い場合、一般の人より早くから、またはより頻繁に検診を受ける必要があります。
例えば、BRCA1またはBRCA2(BRCA1/2)遺伝子変異を持つ人は、乳がんのリスクが高くなります。これは、一般的に、乳がんや卵巣がんを持つ家族、親族にいる場合、これらFTMは、胸オペ前に遺伝子検査を受けることが推奨されます。この検査を受けることで、胸オペを選択するか、乳がんリスクを軽減するために両側乳房切除術(乳頭と乳輪も切除)を選択するか、手術方法の選択に役立ちます。
一方で、乳がんリスクが高くない場合は、遺伝子検査の基準を満たさないため、胸オペ前の遺伝子検査は推奨されません。

胸オペを検討している場合の乳がん検診

FTMのひとが胸オペを受けた場合、乳がんのリスクは非常に低くなります。胸オペは乳がんを完全に防ぐものではありませんが、そのリスクを大幅に減少させます。

ただし、乳がんリスクを低減する目的で行われる乳頭乳輪を含む乳房切除と比較すると、胸オペでは乳頭、乳輪下の一定の乳腺組織が残ることを考慮する必要があります。

そのため、個別のリスク評価が必要です。たとえば、上記の家族歴のある場合です。また、ホルモン治療の有無によってリスクが異なるため、胸オペ前に医師とリスク評価を行うことが大切です。☞胸オペと乳がんとの関係

胸オペ(乳腺摘出)前の検査や術後の組織検査が推奨される場合がありますが、検診、検査の必要性は患者ごとの判断が望ましいとされています。

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