性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

FTM、MTFは、寿命が短いってホント!?

明らかな根拠はあるのでしょうか?

もしかすると、知り合いがGIDの人がたまたま亡くなっただけで、SNSで拡散されてしまったり、ブログの記事に記載していたのをたまたま見て、そう感じたのかもしれません。

都市伝説化している感じがあるので、本当にそうだろうか?これは医学的根拠はあるのだろうか?と、早速、海外の医学論文などを調べたらありました!

今回は、ホルモン治療しているFTM、MTFの人たちのホルモン治療のみにクローズアップした報告を紹介します。

ホルモン治療による死亡率

FTM、MTFは男性化、女性化を望むために、それぞれ生物学的性とは異なったホルモンで治療します。

男性ホルモン治療をするFTM、女性ホルモンで治療するMTFが、長期に治療していることによる死亡原因については、今までに報告がほとんどありませんでした。

FTM、MTFの長期に渡るホルモン治療における死亡率について報告です。

方法と対象者

ジェンダークリニックでホルモン治療をしているMTF900人とFTM360人、ホルモン治療を開始後の平均18年の患者を対象とした。

これらのGIDと一般人との死亡率を比較した検討した。

女性ホルモン薬の種類は豊富にあり、MTFは女性ホルモン(エストロゲン)を飲み薬、筋肉注射、ジェル、パッチなど多く投与する傾向にある。

一方、男性ホルモン薬の種類は少なく、FTMはテストステロンの筋肉注射もしくは、ジェルで治療していた。

性別適合手術(SRS)後のホルモン治療は、SRS前に比べると、より低い濃度の薬での治療を継続していた。

ホルモン治療中の死因

FTMのグループ
一般人口に比べ死亡率が高くもなく低くもなかった。

MTFのグループ
一般人口比より51%高かった。(122人死亡/900人)

死亡の原因を主に占めていたのは、自殺、免疫不全(HIV)、心血管系疾患、薬物中毒などの原因不明も含まれた。

がんの死亡率は有意に高くはなかったが、血液のがん、肺がんの死亡率が高かった。

MTF死亡の詳細

死亡率:一般人の人口比1.42倍。

がん28人、自殺17人、心血管系疾患18人、脳梗塞5人、肺疾患13人、消化管3人、血液疾患6人、脳疾患2人、エイズ16人、事故24人、その他。

虚血性心疾患で死亡18人の内訳:発症平均年齢59歳。平均13年間女性ホルモン治療をしていた。

このうち、61%がエチニール・エストラジオールを平均9.7年使用していた。他は、パッチとジェルを16.9年使用しているひともいた。

22%高脂血症、22%静脈血栓の診断を受けていた。28%が以前に心筋梗塞を発症していた。

脳梗塞で死亡5人の内訳:人口比2.11倍。60歳前に死亡2人、他60、62、75歳。すべてエチニール・エストラジオールを使用していた。2人が虚血性心疾患の既往あり。

FTM死亡の詳細

死亡率:一般人の人口比1.12倍。

MTFに比べると死亡率は低いけれども、対象者がMTFより若い(65歳を超えているひとが、6人のみ)からかもしれません。

42歳で男性ホルモンを始めて、72歳で心筋梗塞が1人、ドラッグでの死亡1名。この対象者においては、乳がんの死亡者はいませんでした。その他のがんは、一般人の比率は同じでした。

考察

女性ホルモン治療をしているMTFの死亡原因は、女性ホルモンに関係するものではなかった。

しかし、エチニール・エストラジオールは、心脳血管系による死亡のリスクを高めると以前から多くの報告がされている。

18人が心血管系、5人が脳梗塞であるが、一般人口比に比べ高いとは言えず、必ずしも直接の原因が女性ホルモンであるかは確定できていない。

FTMの男性ホルモン(テストステロン)の使用は、男性ホルモン低下症の男性が使用するホルモン量の範囲内であれば、安全だと思われる。

※テストステロンのジェル、パッチは日本では製造販売されていませんが、クリーム状のものは、「グローミン」があります。パッチは国内でも販売されていません。

※エチニール・エストラジオールは、男性ホルモンを抑える強力な女性ホルモンですが、個人輸入では多く販売され、国内では個人輸入されている方は多くいるかと思います。

エチニール・エストラジオールの内服は止めるべきです
国内では商品名「プロセキソール」がありますが、安全性の点から現在欧州ではMTFには処方されません。

コメント

今回の報告は、ホルモン治療を平均18年しているMTF900人、FTM360人と対象者の数も多く、個人のブログ体験談とは違い、たまたまの結果ではなさそうです。

FTM、MTFにとっては、根拠のあるよい報告でした。

やはり、ホルモン治療していると寿命が短いとは言えない結果でした。

ただし、MTFは、ホルモン治療以外の要因での死亡率が高かったのが気になるところでした。

男性、女性ホルモン治療ともに副作用がないとは言いませんが、過度に投与せず、適切な量、頻度を使っていれば安全な治療と言えます。

参考文献
A long-term follow-up study of mortality in transsexuals receiving treatment with cross-sex hormones. Eur J Endocrinol. 2011 Apr;164(4):635-42.

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自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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