性別適合手術後に後悔するひとは、どの程度いるのでしょうか?
どのような理由で後悔したのかなどの海外の研究論文を要約したものを5つご紹介します。
研究医学論文① 性別適合手術後の後悔
過去30年間のフォローアップ文献から得られたデータと、SRS後の男女295名の臨床データを用いて、手術を後悔した患者の数を推定しました。
SRS後の女性から男性への性転換者、すなわちFTMの場合、著者のサンプルでは後悔は報告されておらず、文献でも1%以下です。
SRS後の男性から女性への性転換者、MTFでは、1~1.5%の割合で後悔が報告されています。
従来の文献に報告されている後悔の主な理由は、不十分な「性別違和」の診断、実生活でのテストの失敗、および手術結果の悪さのようです。
これらの3つのケースでは、性格的な特徴に加えて、患者の治療における適切なケアの欠如が大きな原因と考えられます。
[Regrets after sex reassignment surgery]
F Pfafflin – Journal of Psychology & Human Sexuality, 1993
研究医学論文② 性別適合手術後の術後後悔
過去の医学的な文献によると、後悔のリスクは、長い異性交遊の経験があり、性転換を希望する時期が遅く、家族や友人のサポートを受けていない男性に高いことが示されています。
この結論に加えて、性生活の欠如、治療の中断、幼少期に性同一性障害がなかったことが、術後の後悔のリスクの重要な基準になると思われます。
[Postoperative regrets after sex reassignment surgery: A case report]
Sexologies Volume 22, Issue 2, April–June 2013, Pages e55-e58
研究医学論文③ 性別適合手術後の後悔の予測
1972年から1992年におけるスウェーデンの医療施設での研究では、術後に後悔したトランスジェンダーが3.8%いました。
性転換後に後悔し、再度性別を戻すことがないように、医療機関側もあらゆる努力をしなければなりません。しかしながら、性転換後の経過、予後を評価した研究は多くありませんが、いくつかの追跡研究が過去数十年間に発表されています。
性別適合手術適応の見極め、長年にわたって改善されてきた外科技術、治療後の心理社会的支援などの評価が改善されてきたことにより、これらの結果が長年に渡り改善してきています。
早期に性別適合手術する人たちと心理的、社会的にサポートのみを受けた人たちは、統計学的に比較すると、手術した人たちによい結果が表れています。
しかしながら、これらの結果を慎重に解釈する必要があります。
それは、この研究では、2つの重要な因子が議論されていません。
①新しい性の役割に関連しての影響
②手術結果の悪影響
従来の研究報告によると、性別適合手術の後悔の頻度は、0%~38%までで研究規模により大きく異なります。
手術の後悔を予測する要因は2つあります。
①家族のサポートがない
②不確実な診断をされている
[Factors predictive of regret in sex reassignment]
Acta Psychiatr Scand 1998 Apr;97(4):284-9.
研究医学論文④ 治療後の後悔
治療後の後悔に関する文献は解釈が複雑である。性別を確認するための治療後の全体的な満足度は高いです。
20年以上前の研究では、トランスジェンダー女性の2%、トランスジェンダー男性の1%が、ホルモン治療や外科治療を受けたことを後悔していることがわかっています。
後悔の原因は様々です。多くの場合、性別適合手術後の不満は、社会的・医学的移行に関する後悔と解釈されています。
性別適合手術後に不満を表明する人と、移行をやめて生まれた時の性別に戻りたい人とを区別するために、1992年にPfäfflinらは、小さな後悔と大きな後悔を区別しました。
最大規模のジェンダークリニックの一つ(アムステルダム)では、1975年から1998年の間に2034人が治療を受けた。このうち10人が、治療を受けたことを後悔していると答えています(トランスジェンダー女性9人、トランスジェンダー男性1人)。
後悔した理由は、生まれたときに割り当てられた性別にこだわることや分離を望むこと(大きな後悔に分類される)から、手術の結果に対する不満や性別を確認するための治療後のサポートを失ったこと(小さな後悔に分類される)までさまざまでした。
2005年の調査では、3090人の被験者のうち、大後悔と小後悔の数が5人ずつ増加しました。2015年には、治療を受けた対象者の総数は6793人に増えていましたが、それ以上の後悔を表明する人の増加はありませんでした。
治療方針の決定に疑問を抱く人が時間の経過とともに少なくなっているのは、トランスジェンダーの人たち自身と医療従事者の両方の性別不一致に対する理解が格段に向上し、トランスジェンダーの人たちが社会に受け入れられるようになってきたことを反映しているのかもしれません。
医療従事者は、患者の診断を下すのではなく、より患者を中心としたケアを提供し、その人のニーズを理解しなければいけません。
[Endocrine Reviews]
Endocrinology of Transgender Medicine Volume 40, I 97–117
研究医学論文⑤ 性別適合手術後の後悔の予測(主にMTF)
異性愛者の男性(MTF→女性)が同性愛者の男性や女性よりも性転換手術を後悔する可能性が高いかどうかを調査した研究があります。
対象となったのは、手術を受けて1年以上経過した111名の術後トランスセクシャルで、追跡率は84.1%でした。被験者の手術に対する感情は、自記式のアンケートで評価されました。
その結果、女性の同性愛者(FTM→女性)61人、男性の同性愛者(MTF→男性)36人のうち、手術を後悔している人はいなかったのに対し、男性の異性愛者(MTF→女性)14人のうち、4人は手術を後悔していることがわかりました。
この結果は、異性愛の嗜好が手術の絶対的な禁忌ではないものの、異性愛の性転換希望者は特に慎重に評価すべきであることを示唆しています。
{Prediction of regrets in postoperative transsexuals}
Can J Psychiatry 1989 Feb;34(1):43-5.
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【医師 大谷伸久の経歴】
平成6年北里大学医学部卒業(医籍登録362489号)
国立国際医療センター、北里大学病院、順天堂大学医学部研究員などを経て、
平成20年:自由が丘MCクリニック開業
GID(性同一性障害)学会認定医、テストステロン治療認定医