男性ホルモン(テストステロン)注射は、FTMにとって男性化するために欠かせない身体的治療の1つです。
治療を開始すると、生理が止まる、声が低くなる、ヒゲが生えるなど男性化が著しく、身体的変化も大きいためFTMにとって満足度が高いです。
FTMの男性ホルモン注射の種類について
FTMの男性ホルモン治療において、日本国内では、テストステロン・エステル酸が従来から使われています。
男性ホルモン注射は、FTMのための特別なものではなく、主に男性更年期障害に用いられるホルモン剤と同じものになります。また、FTMの場合に注射する頻度も、男性の治療を参考に行っています。
短期型は125㎎、250㎎の規格があり、それぞれ2~3週、3~4週に1回筋肉注射を行います。
長期型の男性ホルモンはヨーロッパを中心に10年以上に渡って使われ、血中濃度が短期型の男性ホルモンより安定している利点があります。
その他にジェル、クリーム、パッチが他の国々で使われていますが、日本国内では、クリームのみの販売となっています。
FTMの治療に使われてる男性ホルモンの種類をご紹介していきましょう。
- 筋肉注射用
- 飲み薬用
- 塗り薬、パッチ用
があります。
飲み薬…ほとんどが肝臓で代謝され、 肝障害を起こしやすいので注意が必要です。
効果もあまり期待できず、お勧めはできません。
テストステロン筋肉注射
基本的な男性ホルモン治療です。FTMの場合は、体内で産生されないので、外から摂り入れなければなりません。
男性ホルモンは、打ってから2、3日でピークに至りその後下降して推移します。
短期持続型男性ホルモン(テストステロン)
規格
日本国内では、エナント酸テストステロン125㎎と250㎎の2種類の規格があります。
2~3週間で、効果がなくなります。
日本国内製品の商品名は、エナルモンデポー、テストロンデポー、テスチノンデポーがあります。
持続期間
125㎎…2~3週に1回、250㎎…3~4週に1回の頻度で注射します。
125mgと250㎎の違い
6か月後の時点では、250㎎の方が男性化が早いですが、1年の経過時点では男性化の違いはほぼ見られません。
FTMによっては周期変動、例えば、 サイクルの終わり頃に感じる疲労やイライラ、サイクルの初め頃に感じる攻撃性や気分の高揚などを敏感に感じる方もいます。その持続する時間が正常な生理学的レベルではないと意識されることもあります。
これらを緩和するには、投与量を減らして回数を多くするとか(3週に1回250mgを注射している場合は、125mgを2週間に1回に変更するなど)、男性ホルモンクリーム(グローミン)を毎日使用するのがよいかもしれません。
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FTMの男性ホルモン治療は、125または250がよいのか?そして間隔は?
長期持続型の男性ホルモン(テストステロン)
ネビド(テストステロンウンデカン酸エステルが商品名です)
- 規格
1000㎎しかありません。
- 持続期間
海外では3か月に1回とされていますが、日本人だと1回の注射で、5~6か月効果が持続します。(当院のデータ比較より)
通常の注射より高価になりますが、 男性ホルモン濃度が不安定な方、安定した濃度を保ちたい方、定期的に来院できない方、遠方の方などに向いています。
デメリットは高額なことだけです。
時間・交通費をお金に換算すると得かもしれません。 左右のお尻に2か所注射します。
男性ホルモン塗り薬
残念ながら日本では、海外ではよく使用されている軟膏・ゲルの販売は国内製薬会社からは販売されていません。
日本国内では、男性ホルモンを効率的に補給できる軟膏で、唯一の塗り薬であるグローミン®しかありません。
FTMに対するホルモン治療は、ほとんどにテストステロンデポー剤の筋注が使われています。
MTFのホルモン治療に対しては、デポー剤以外に飲み薬・経皮テープ・経皮ゲル等が用いられているのに比べると,FTMのホルモン治療のほとんどは、筋肉注射しかなく選択肢が少ないのが現状です。
筋肉注射の使用はほとんどの場合、適正に治療されていれば、副作用などもなく安全に使われていますが,長期の使用となるため,筋肉や神経の炎症,痛みなどの身体的問題に加え,2~3週間ごとに通院を必要とする時間的な制約も生じます。
グローミンンは、通常、男性ホルモンが低下している壮年期、更年期障害の男性に使用しますが、FTMに対しての臨床研究も行われていて、効果が実証されています。
男性ホルモンの血液濃度は、本来の自然な男性の生理的範囲内で保つことが大切です。
グローミンは、注射に比べ低用量ですが、ホルモン値が生理的範囲を超えることはなく、体に負担をかけることもありません。
グローミンのメリット、デメリット
メリット
- 他の製剤に比べて、負担が少ない
- 痛くない
- 過量になりにくい
- ホルモン値の生理的基準値を超えない
デメリット
- 男性化が遅い
- 毎日規則正しく塗らないといけない
- 生理が止まらないこともある
男性ホルモンの副作用について
FTMにおける男性ホルモン治療の身体的影響に対する評価の研究がとても少ないのですが、いくつかの研究報告では、安全で副作用のリスクは少ないとされています。
しかしながら、多血症、善玉コレステロール(HDL)の低下、悪玉コレステロール(LDL)の上昇、肝逸脱酵素の上昇、肥満、痛風(高尿酸血症)、ニキビ、頭髪の薄毛(禿げ)などの症状が少なからず認められます。
卵巣を摘出していないFTMの男性ホルモン治療
男性ホルモン治療をしばらく治療を続けると、卵巣の機能は低下もしくは、一時停止状態になります。そのため、卵巣からの女性ホルモン分泌がされなくなります。
中断してから卵巣が復活してこないと、からだの中に性ホルモンがない状態になるので、しばらく更年期症状を起こします。女性ホルモンの分泌が再開されると、男性ホルモン治療を始める前と同じにあります。
卵巣をすでに摘出してるFTMの男性ホルモン治療
女性ホルモン分泌することはないので、更年期症状がしばらく続きます。一般女性の閉経後と同様の
経過をたどります。少なくとも数年以内には更年期症状もなくなります。
ただし、骨が弱くならないように、ホルモンはできるだけ続けた方がよいです。
男性ホルモン治療するFTMが知っておきたいこと5つ
男性ホルモン注射をするまでの具体的な手順
診断書の準備
・既にお持ちの方は、来院の予約日に持参してください。
(他院から紹介状は、必ずしも必要ありませんが、お持ちの方は持参お願いいたします)
・診断書を持っていない方
☞他院で発行してもらう
☞当クリニックで診断
※未成年の方は、親権者の同意が必要です。
☞同意書のダウンロード
カウンセリング、注射
来院当日に男性ホルモンの効能、副作用などについて医師から直接説明させていただきます。
診断書を持参された場合は、当日に注射することができます。
ホルモン治療を始める前に、現在の身体状態(肝機能や腎機能など)を確認します。
ホルモン治療後に何か異常があったときに、治療前のデータが参考になります。
当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
☞クリニックのご案内
ホルモン治療、手術についてわからないことなどありましたら、気軽にライン、またはメールからお問い合わせください。
【医師 大谷伸久の経歴】
平成6年北里大学医学部卒業(医籍登録362489号)
国立国際医療センター、北里大学病院、順天堂大学医学部研究員などを経て、
平成20年:自由が丘MCクリニック開業
GID(性同一性障害)学会認定医、テストステロン治療認定医