・「性同一性障害の人に未成年の子どもがいる場合には、性別変更を認めない」と初めて最高裁が判断
・憲法13条,14条1項の趣旨から、憲法違反ではない
性同一性障害の人に未成年の子どもがいる場合、性同一性障害特例法の規定が憲法違反かが争われた裁判の件です。
性同一性障害特例法での戸籍上の性別を変える要件のうち、「未成年の子どもがいないこと」の項目について争われました。
▽20歳以上であること(令和4年4月1日18歳以上に改正)
▽現在、結婚していないこと
▽未成年の子どもがいないこと
▽生殖腺や生殖機能がないこと
最高裁判所は、上記の「未成年の子どもがいないこと」の規定について、憲法13条,14条1項の趣旨から「憲法に違反するものではない」とする初めての判断を示しました。
一方で裁判官5人のうち1人は「憲法違反だ」とする反対意見を述べました。
【参考条文】
※憲法14条(幸福追求権)
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
※憲法14条1項(法の元の平等)
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
(経緯)
性同一性障害の54歳の会社員は、性別適合手術後に、戸籍上の性別を男性から女性に変更するよう裁判所に求めました。
会社員には、前の妻との間に当時10歳の子どもがいたのですが、地方裁判所で行われた審判では、性同一性障害特例法で戸籍上の性別を変えるには「未成年の子どもがいないこと」と規定されているのは憲法違反だと主張しましたが認められず、最高裁判所に抗告していました。
5人の裁判官のうち、学者出身の宇賀克也裁判官は「規定は合理性を欠き、個人の権利を侵害していて憲法違反だ」と述べました。
宇賀裁判官は反対意見の中で、
「未成年の子どもに心理的な混乱や不安などをもたらすと懸念されるのは、服装や言動なども含めた外見の変更の段階で、戸籍の性別変更は、外見上の性別と戸籍上の性別を合致させるだけだ。子どもの心理的な混乱や親子関係に影響を及ぼしかねないという説明は、漠然とした観念的な懸念にとどまるのではないか」と疑問を示しました。
そのうえで「外見上の性別と戸籍上の性別の不一致で、親が就職できないなど、不安定な生活を強いられることがあり、その場合は、戸籍上の性別の変更を制限することが、かえって未成年の子の福祉を害するのではないか」と指摘しています。
さらに「性同一性障害の人の戸籍上の性別変更を認めても、子どもの戸籍の父母欄に変更はなく、法律上の親子関係は変わらない。大多数の家族関係に影響を与えるものでもなく、家族の秩序に混乱を生じさせないという理由についても十分な説得力が感じられない」としています。
そして、規定は合理性を欠き、幸福追求権を保障する憲法13条に違反しているとして、性別変更を認めるべきだと述べました。
今回争われた「未成年の子どもがいないこと」という規定は、平成16年に法律が施行されたときには「子どもがいないこと」と規定されていましたが、子どもが成人した場合には性別を変更できるよう、平成20年の法改正で緩和されました。
改正前の規定については、最高裁が平成19年に「子どもがいる人の性別変更を認めると、家族の秩序を混乱させ、子どもの福祉の観点からも問題が生じかねないという配慮に基づくもので、合理性を欠くとはいえない」として、憲法違反ではないとする判断を示していて、今回はこの考え方を踏襲し、憲法に違反しないことは明らかであると結論づけています。
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号は,憲法13条,14条1項に違反しない。
(反対意見あり)
今回の最高裁判例:令和2(ク)638号☞判決全文
性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
令和3年11月30日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所
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