このコーナーでは、胸オペを考えている方が疑問に思うことをさらに深く掘り下げてみました。
医者が普段毎日行っていることは、ぼくらにとっては当たり前のことでも、患者さんにとっては、手術を経験したことがなければもちろんのこと、ケガで皮膚を縫ったことや歯科の麻酔なども経験したことがなければ、右も左もわからないことが多いのは当然です。
当クリニックに寄せられた胸オペに関するメール相談や実際に胸オペをした人の感想、そして、日々の質問も反映させ、リアルな情報も盛り込みました。
より深く掘り下げた胸オペの疑問
胸オペは、胸(乳房)を男性のように平らにすることを目的としています。一方、一般女性が胸が大きくて苦痛を伴いコンプレックを抱えている場合にも乳房縮小手術というのもあります。胸があって、苦痛ということに関しては、両者に違いがありません。
一応、FTMが行う胸オペは、性別適合手術の1つとして捉えられているために、性別不合の治療のガイドラインでは、手術する前に診断書が望ましいとされています。
ガイドライン上は、手術の適応が18歳以下となりますが、親権者の承諾があれば、15歳くらいから胸オペが可能となります。ガイドラインに沿わなくても、その後の治療に支障を来すことはありません。
胸オペとは、胸部から乳腺を摘出することをいいます。一般的に乳腺だけ取り除くオペというのはありません。あえて言うなら、まだ一般的な手術とは言えませんが、乳がん予防のために両側の胸の乳腺を摘出するオペと同じです。
胸の「たるみ」がなければキズは小さくて済みます。乳輪の辺縁下半周切開(U字切開ともいう)をして乳腺を取り除きます。一方、たるみが重度であれば、U字切開での方法では、オペ後に皮膚のたるみを生じるため、余った皮膚を切除する方法が必要になります。
前述のように、胸オペの中では、もっともキズが目立ちにくいのがU字切開するオペ法です。ただし、すべてのひとに適応するわけではありません。オペ前に胸のたるみがないことが条件になります。
胸オペも一般的な手術と同じように、感染、出血、キズの治りが悪いなどのリスクがあります。
胸オペする際に、BMIが30以上の場合、麻酔や手術のリスクが増加します。気管挿管が困難になるほか、呼吸器系・血栓・傷の治癒遅延などの合併症が懸念されます。安全に手術を受けるため、BMI30以下への減量と術前の体調管理を推奨します。
手術をして、それでおしまいということはありません。オペ後も責任持って最後まで対応させていただきます。
オペ後は、当日は仰向けで寝て胸への圧迫を避け、上半身を少し高くすると腫れや痛みが軽減されます。腕は自然な位置に保ち、柔らかい寝具を選びましょう。寝返りは慎重に行い、胸部ドレーンのチューブの折れやねじれを防ぎながら、排液の状態を定時に確認してもらいます。適切な姿勢を意識し、回復をスムーズに進めます。
オペ前に大胸筋を鍛えることはいいことですが、鍛えなければ結果に何かしら影響することはありません。オペ後の筋トレも1か月後より可能です。
オペ前に男性ホルモン治療することはよいことです。大きい期待はできませんが、胸(乳腺)が少し小さくなるかもしれません(萎縮)。
全身麻酔手術で尿カテーテルを挿入する理由は、①体内の水分バランス管理、②膀胱の安全確保、③手術操作の邪魔を防ぐためです。麻酔中は膀胱の感覚が麻痺し、尿の排出が難しくなるため、適切な排尿を促します。挿入は麻酔後に行われるため痛みはなく、術後1時間で抜去されることが一般的です。感染リスクは低く、抜去後も看護師が排尿の状況を確認します。
手術による喫煙の影響は、以前から知られていることです。胸オペを受ける年齢層は若い方々が多いとは言え、キズの治りが悪いなど術後の経過に悪く影響することがあります。この際、ぜひ禁煙しましょう。
胸オペを予定していて、生命保険に加入しているひとは、オペ前に加入している会社に連絡しておくとよいでしょう。会社によっては、審査が厳しいことがありますが、胸オペは美容の手術ではないので、一般的には認められます。できるだけ手術前に性別不合の診断書をもらっておきましょう。
胸オペが日帰りで危険という医師もいますが、世界医療基準からすると「日帰り手術」はまったく問題ありません。ここ20年くらいで目まぐるしいほど麻酔法、使われるくすりなどが進歩しています。全身麻酔は、20年前だとガス麻酔が主流でしたが、現在では完全静脈麻酔といって、すべて点滴から入れるくすりで手術中は管理するようになりました。
使われる麻酔薬の代謝が非常によいので、手術終了ととも目が醒めるくらいくすりの代謝がよくなったので、20年前には日帰りで帰宅できなかった手術が、今では日帰りを可能とした手術も多くあります。胸オペもその1つに挙げられます。
胸オペは、FTMのための男性化胸部再建で、乳房切除術の中の1つの方法です。
胸のふくらみがなくなると、QOL(生活の質)が向上するとされていますが、安全性に関する研究がほとんどありません。安全性について、過去の研究論文を紹介します。
胸オペも一般的なオペ後に起こりえる症状と同じです。出血、感染などです。とくに胸オペの場合、血が溜まって血種を生じやすいことが特徴とされます。
手術に絶対はありませんが、1件1件慎重に行っています。これは、当クリニックでは過去2000件以上の胸オペを行っている実績から判断していただければと思います。(2024年12月時点)
胸(乳房)は年齢とともに、皮膚の弾力性もなくなり下垂する傾向にあります。これに加え、胸のボリュームがあるとなおさら下垂します。
胸のたるみがオペ前からあると、オペ後のキズ跡が大きくなる傾向にあります。
乳腺を取りだした後には、少し内部に血が溜まることがあります。オペ後に胸部内に血が溜まらないようにするために、強制的に外部にある小さなポンプ(陰圧)を利用して、胸の外に追い出す働きをします。
胸オペは胸部の手術なので、術後上半身を使う激しい運動、コンタクトスポーツは、オペ後1カ月から可能です。いきなり運動するのではなく、オペ後3週後から上半身のストレッチから始めます。
男性の胸の乳輪の真下に乳腺が少しあるように、胸オペ後も男性と同じくして、乳輪真下に少し乳腺を残します。これは、乳輪部分が陥没しないようにするためです。
このため、乳がんは男性とほぼ同じ発生率とされています。
胸オペを国外で行うメリットは、安く済むことです。子宮卵巣摘出まで考えているひとにとってもメリットになります。技術的なことは変わりがありません。
国外で行う手術と違って、手術をやったらそれでおしまいということはありません。責任もって最後までフォローいたします。外国で胸オペすると、1番大切な術後のフォローができないことです。
全身麻酔で行います。当クリニックでは、オペ後の痛みを少しでも軽減する方法を提供しています。
オペ後のキズに対しての考え方は、過去30年あまりで随分と変わりました。現在は、消毒する必要はなく、できるだけ創部を乾かさないで、湿った状態(wet)な状態を保つのがよいとされています。胸オペ後のキズに対しても同様の考えです。
男女の区別はどこで?
社会生活をする上で、男女の区別は外見、とくに胸で見分けていることが多いかもしれません。
その特徴の1つに胸のふくらみがあります。一般的に、胸があるかないかで男女を見分ける1つなのでしょう。要は、胸があるかないかです。
胸のふくらみを取る方法は?
通常、胸のふくらみを取るためには、脂肪ではなく、「乳腺」を摘出しないといけません。乳腺摘出、乳腺切除、乳房切除、乳房切断などの用語があります。
胸オペするしないは、本人次第
確かに小さくても胸は胸です。たまに、胸オペしなくてもいいのではないかと思う人まで手術を希望します。ただ、実際に乳腺を取り出してみるとそれなりの大きさがあるので、やはり取ったのが正解だと思うことも多いです。
ぽっちゃりした男性の胸は脂肪が多く占めますが、身体が女性の場合、いくら小さくて胸に脂肪が付いていなくてもそれなりにしっかりした乳腺があります。
男性なのに、胸のふくらみがあるとおかしい!?
男っぽい洋服を着て、男っぽい髪形をしても、まさか胸のふくらみがあっては、どうもおかしくなってしまいます。ナベシャツでつぶせば胸の大きさを抑えられるので女性っぽくは見えなくなります。そのため、ほとんどのFTMの人たちは、ホルモン治療する前から、胸を隠すためにナベシャツを着ることが多いです。
特に、男性ホルモン開始後かなり経過している場合は、顔つきは、まさに男性にしか見えなくなるため、さらにギャップが大きくなります。ますます胸に対する違和感が強くなってしまいます。ある研究によると、男性ホルモンを始めると、胸のふくらみがさらに気になり、早くに胸オペを希望する傾向にあるようです。
胸に関するFTMが思う印象的な言葉
FTMの人が印象的なことを言っていました。
「いくら心が男でも、胸のふくらみを見られて女に見られては心が折れてしまう」と。
やはり女性を象徴する身体のパーツである「胸」は、邪魔そのものに感じますよね。
・男性ホルモンはするつもりはないけど、胸だけは取りたい・・・
・性別も変更するつもりはないけど、胸はいらない・・・
・別に男になりたいわけでもないけど、胸の違和感半端ない・・・
とりあえず、胸のふくらみがあると気持ちが悪い・・・と思ってしまうFTM、FTXの多くの人の意見でしょう。
【胸オペに関連するサイト】
☞手術をお考えの方へ GID学会認定医が胸オペの全てを解説
当院は、主に性別不合、トランスジェンダー専門クリニックとして、性別不合GI学会認定医による性別違和に関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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【医師 大谷伸久の経歴】
平成6年北里大学医学部卒業(医籍登録362489号)
国立国際医療センター、北里大学病院、順天堂大学医学部研究員などを経て、
平成20年:自由が丘MCクリニック開業
性別不合GI学会認定医、テストステロン治療認定医