文責 性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

現在の男性ホルモン投与の間隔が適切か否か?

FTMの男性ホルモンの値を調べる目的は、現在の男性ホルモンを注射する間隔が適当なのかを確認してみるためです。

各医療施設によって、医師の考え方もあるかと思いますが、当院の男性ホルモン治療の考え方をご紹介します。

まず、前提条件として、男性ホルモンを打ってからどの程度でなくなってくるのか?は、個人差はありますが、ホルモン濃度が低くなる(なくなる)時期のおおよその目安は以下の通りです。

男性ホルモン125㎎→2週
男性ホルモン250㎎→3~4週

通常、短期型男性ホルモンは、エナント酸エステルを使用しています。商品名としては、エナルモンデポー、テストロンデポー、テスチノンデポーがあり、デポーというのは、貯留という意味があり、注射後に徐々に放出されて、代謝されていきます。

医薬品の薬剤情報によると、男性の更年期障害の場合、250㎎だと2~4週に1回とありますが、これをそのままFTMの治療で、男性ホルモン250㎎を2週に1回を続けていくと、ほとんどの人が多血症になります。早くに男性化しても、副作用が増すだけです。

FTMにとって、適正な男性ホルモン濃度は?

男性の場合の男性ホルモンの血中濃度は、1日のうち朝に高く、夕方につれ低くなります。これを日内変動といいます。このように本来男性の場合は日内変動があるのですが、FTMの場合の外から取り入れるので血中濃度はほとんど変わりません。

男性ホルモンの125㎎と250㎎の違い

下のグラフでみると、男性ホルモンの生理的基準値(正常値)は2~8.5です。
250㎎で打った場合、通常ピークはこの生理的基準値を超えます。

 

また、振り幅が大きいので、濃度の差が激しいのが特徴です。

一方、125㎎は男性ホルモンの高低差がそれほどでないので、比較的濃度は安定します。

・250㎎は基準値を超えることが多く、血液中の男性ホルモン濃度が高い傾向にあります。次のことが言えます。
①濃度が高いと皮脂が増えるため、ニキビができやすくなる。
FTMのニキビ
②濃度が濃すぎると次第に頭髪が禿げやすくなる。
FTMの頭髪の禿げの治療

・250㎎は、高低差が大きいために、血液濃度がいっきに低くなると「更年期症状」を生じることがあります。ホットフラッシュ(顔が熱る、汗をかく)イライラ、うつなど。

FTMの男性ホルモンはどの程度で打つとよいか?

FTMの場合はどうでしょう?

身体では副腎から微量の男性ホルモンの分泌がありますがほとんど影響がないので、外から男性ホルモンを摂り入れなければ男性化はしません。ただ、短期型男性ホルモンは、一定の濃度は保つことができないので、急上昇して、急降下します。

例えば、男性ホルモン250㎎を注射して3週後には、以下のようにほとんどなくなります。


「確かに3週後にほとんどなくなっているけど、2週間後になくなっているかもしれないではないか?」という疑問も生じます。

まったくその通りですが、男性ホルモン250㎎を打って、2週後になくなっていることは少ないでしょう。もちろん、2週後に血液検査をしてみるのもよいかと思います。

また、250㎎であれば、なくなっているであろう3週後に血液検査をするわけですから、濃度が0に近いわけで、この値を見て、FTMの方は落胆する方も少なくありません。

注射後2,3日後に血中濃度を調べると高いですが、ご本人には今後どの程度の間隔で注射していったらよいかアドバイスができません。

さて、250㎎を注射後3週時点で、まだ残っている場合はどうでしょう?

基準値の下限である場合は、そのまま3週おきに打ってもよいし、1週ほど伸ばして4週おきに注射してもよいでしょう。

これらは、画一的に注射する間隔を決めるのではなく、生理が止まっているのか否か、赤血球、ヘモグロビン、肝機能などの値などを総合的に考慮して決めていきます。

LHを測定してみる

このように、男性ホルモン濃度が適切なのかどうか調べるために、臨床症状だけでなく、LH(卵胞刺激ホルモン)の濃度を測定する方法もあります。

LHが正常の濃度範囲内であれば、男性ホルモンが適切な間隔で治療できるていることがわかります。

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自由が丘MCクリニック院長の大谷です

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