性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

性同一性障害GIDの生殖医療の現状

ホルモン療法を行っているトランスジェンダーの患者は、治療を中止しない限り妊孕性(にんようせい:妊娠する可能性)が制限されます。

生殖腺の除去を受けた人は生殖能力を完全に失います。したがって、治療を開始する前に、妊孕性の問題を考慮しなければいけません。

ホルモン療法または手術の前に、MTFは精子の凍結保存を考慮することがあり、FTMは卵母細胞または胚の凍結保存の選択肢があります。

胚の保存はより確立されていますが、卵母細胞の回収、体外受精および保存料に加えて卵巣刺激を含む関連コストが高いというデメリットがあります。

生殖補助医療(ART)とは?

体外受精、そして近年進歩した新たな不妊治療法を指します。

この生殖医療は、不妊に対してだけでなく、FTMの人たちにも適応できます。

日本国内では、ほとんど症例がありませんが、海外では、最近活発に行われ、子どもを持つことができるようになってきています。

性同一性障害GID/MTF・FTM、性別違和、トランスジェンダーの人々が、 もしかして、将来子どもが欲しいと思うようになるかもしれません。

ホルモン治療や性別適合手術(SRS)を受けたのちに、遺伝的につながりのある子どもを持つのが不可能になったことを悔やむ場合もあることが知られています。

たとえ性同一性障害gid当事者が治療を始めるときに生殖能力の問題に興味を持っていないとしても、こうした子どもが欲しいという話題があとになって持ち上がるかもしれません。また当事者が若い場合にはなおさらでしょう。

女性ホルモン治療、男性ホルモン治療、そして、生殖腺(睾丸精巣または卵巣)を摘出すると、生殖能力を制限するため、ホルモン治療前や、生殖線(睾丸、卵巣)を切除する手術を開始する前に、生殖能力について当事者が自ら決定することが望ましいでしょう。

胸オペ(乳腺摘出)に関しては、乳腺からホルモンの分泌などもなく、生殖能力には一切影響しません。☞胸オペ(乳腺摘出)とは?

性同一性障害gidの方々が子どもを欲しいのか、医療機関などの医師と生殖についての選択肢を早めに話し合うことが望まれますが、常に可能な訳ではありません。

もし、ある当事者が性別適合手術(SRS)をまだ行っていなければ、ホルモン治療を長期に中断することで、元の性のホルモンに回復し、精子もしくは卵子を産生することが可能になるかもしれません。

※日本には生殖医療に関する法律はなく、学会ベースの規定のみ

MTFが子どもを持つ方法

・特別養子縁組・里親
・生殖補助医療:精子凍結
精子の保存については、女性ホルモン治療の開始前に、特にまだ子どものいない人は、精子を保存する選択肢があります。

女性ホルモン治療後でも、高濃度の女性ホルモン(エストロゲンなど)にさらされた精巣を検討した研究によると、エストロゲンを中止することにより、精巣機能が回復する可能性もあります。

精子の回収はホルモン治療開始する前、もしくは治療を中止後に精子の数が再び増えてから行われるべきです。

精子の質が思わしくない場合も、凍結保存について話し合われるべきでしょう。無精子症の成人では、精子回収のため精巣生検後の凍結保存が可能ですが、必ずしも成功するわけではありません。

FTMが子どもを持つ方法

・特別養子縁組・里親
・生殖補助医療
提供精子(ドナー)による妻への人工授精AID(Artificial Insemination with donor’s semen)
この場合、民法特例法にて嫡出子として認められます
・卵子凍結保存
未受精卵子もしくは受精卵を凍結する方法です。

FTM当事者が妊娠する選択もありますが、一般的には凍結配偶子と受精卵は、パートナによる妊娠に用います。

男性ホルモン治療を始めても、卵巣は回復するのか?

多嚢胞性卵巣症候群の女性における研究が参考になります。卵巣が高濃度のテストステロンにさらされても、短期間、テストステロンを中止することにより、卵巣は卵子を作れることができる程に十分に回復する報告もあります。

ただ、それは当事者の年齢とテストステロンを使用していた期間に依存します。
研究がなされたわけではありませんが、テストステロン投与後にそれを中止したFTMのいくつかの例で、妊娠と挙児が得られている例があります。

【関連記事】FTMのための生殖医療

性同一性障害GIDの生殖医療の今後の展望

MTF、FTMの生殖のための選択は、いかなる場合も否定されるべきではありませんが、生殖に関する選択肢があるものの、これらの技術はどこででも利用可能なわけではなく、非常に高額になります。 また実際に行ってくれる医療施設が少ないのが実情です。
GIDと生殖医療

思春期前あるいは思春期に GnRHアンタゴニストや女性ホルモン、男性ホルモンを用いることで、 本来の生殖機能が発育していない子どもたちの場合は例外になります。このような例においては、現時点では性腺機能を温存する技術はありません。

性別違和に対して様々な医学的治療を受けている個々人の生殖の問題について、生殖に関する論議や意見を述べた論文を除くと、研究論文はほとんど発表されていません。

性腺の喪失あるいは損傷を受けることから、生殖機能を温存する必要に直面している別の人たち、悪性腫瘍のために生殖器を切除しなければならない人たち、生殖機能を損傷する放射線療法や化学療法を受ける人たちの例があります。

こうしたグループから得られる情報・知見が、性同一性障害(GID)、性別違和のために治療を受ける人々にも応用可能となるかもしれません。

自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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