執筆者:性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

FTMの性転換者の妊娠が国際的に報道されて以来、トランスセクシャルの生殖医療への関心が高まっています。

当クリニックにも、最近、自分の子どもを持つにはどうしたらよいかというメールが多くなってきました。

このような海外の情報を紹介しておきながら、メールの問い合わせが来ても、なかなかご要望に応えることができません。

なぜなら、日本の産婦人科では、トランスジェンダーの生殖医療に積極的に治療しようとはしていないから、そして、情報がとても少ないのが現状です。

そうは言いながらも、現在、そして、将来的にはどのような生殖医療が考えられるでしょうか?

性別適合手術(SRS)による子宮摘出術と両側卵巣摘出術により、FTMにおいて不可逆的(元に戻らない)な自然な生殖能力はなくなります。

しかし、将来的には生殖技術は、FTMにとっても、自分の子供を持つことができる可能性があります。
①自分の卵子を採取し、凍結保存する
FTMが、SRSの前にホルモン刺激を受けることで、卵子を採取し、卵子を凍結保存することができます。

この卵子は、ドナー精子またはパートナー精子で受精させます。その後、パートナーの女性または代理母に移植されます。

しかし、ホルモン刺激と卵子採取は、多くのFTMにとっては望まない処置である可能性があります。

②卵巣そのものを凍結保存する
現在の生殖医療の選択肢は限られていますが、将来的には、卵巣の凍結保存は、この問題を解決するかもしれません。

この技術で、SRSの際に卵巣組織を採取し、将来の使用のために保存します。

男性ホルモン治療では、原始卵胞を枯渇させず、卵胞の発育能力にも影響を与えないとされています。しかしながら、SRSと同時に卵巣の凍結保存までしてくれる医療機関は皆無です。

③可能性が低い方法
・性転換したFTMの卵巣組織を自家移植することはできません。
・卵巣組織片から採取した卵胞・卵母細胞を体外で成熟させ、その後、体外受精を行う方法もありますが、結果はまだ満足できるものではありません。
したがって、倫理的な問題に関わらず、これらの技術をFTMに適用するには、多くの研究が必要です。

アメリカ、はヨーロッパの多くの国とは異なり、合法的な性転換のために子宮摘出と卵巣摘出は必要ありません。その結果、FTMの中には、この手術を選択しない人も多くいます。

そのため、出産することができます。アメリカのFTM、トーマス・ビーティーさんは、子供が欲しいという夫婦の願いを叶えるために、テストステロン治療を中断した後、ドナーの精子を使って3回妊娠しました。
FTMのセレブ(トーマス・ビューティーさんの項目があります)

しかし、性転換したFTMの妊娠については、心配する事柄が多くあります。現在のところ、この問題に関するガイドラインはありません。

世界トランスジェンダー世界専門家協会(WPATH)のケア基準では、ホルモン治療を開始する前の性転換者は、不妊症の問題を考慮するよう促すべきだと明確に述べています。

性転換後に子孫を残すことの倫理的側面については、多くの医療専門家が依然として批判的です。
しかし、FTMの大半は、性転換した時点で生殖可能な年齢に達しており、SRS後も関係を持っています。その結果、他のカップルと同様に、子供を持ちたいと思っているかもしれません。

今回は、SRS後のFTMの生殖に関する希望についての研究報告をご紹介します。
参考医学文献は、
Reproductive wish in transsexual men
Human Reproduction, Vol.27, No.2 pp. 483–487, 2012

FTMは、SRS後にも子どもが欲しいか?

かなり多くのFTMが子供を欲しがっていることを調査したのは、今回の研究が初めて。
・子供のいる参加者は、子供のいない参加者と比べて、子供を(より多く)持ちたいという願望に違いはない。

・子供のいるMTFと子供のいないMTFの間で、子供を持ちたいという願望に違いがないとした。De Sutterら(2002)
☞多くのFTMとMTFは、子供を持ちたいという願望を排除していない。

子どもを持ちたい願望とその影響

・年齢や術後年数に大きな差があっても、子供を持ちたいという願望には影響ない。
・社会的・精神的機能と術後年数との間にも関連性がない。
理由☞長期的な機能についての現実的なイメージができていたから。
(参加者49/50が研究参加する2年前に終えている)

子供を持つことへの欲求の高さ

・女性に魅力を感じる参加者>男性に魅力を感じる参加者
・男性に魅力を感じるFTMは、同性愛男性の大規模なサンプルで観察されたような欲求を持っている可能性がある(Vincke et al., 2006ドイツ語文献)。

・子どもがいたのは22人で、興味深いことに、その大部分は、パートナーの女性がドナー精子による人工授精で妊娠した。
☞MTFとは対照的で、MTFは、SRSの前に、特に性別移行が遅かった場合には、ほとんどが子どもを持っていた
(De Sutter ら)。

診断の時期(MTFとの比較)

FTMの大多数は、早期発症の性同一性障害と診断されていた。
性同一性障害の早期発症と後期発症の数が同程度であるMTFとは対照的であった。 (Nieder et al., 2011)。

さらに、FTMのSRSの年齢は、MTFに比べて有意に低い(平均28歳)。(Kreukels et al., 2010)。
理由☞SRS前に子どもを持つFTMが少ないから。

精神的幸福度

・子どものいる参加者は、精神的健康と活力のスコアで、それ以外の参加者よりも有意に良い高いスコアを示した。
・子どもを持つことは、FTMの精神的幸福度を高めるのか、あるいは精神的幸福度の高いFTMが子どもを多く持つのか、という疑問が生じる。
・この関連性は、参加者の現在の年齢とは無関係だった。
☞子供を持つことは、年齢にかかわらず、精神的な幸福度を高めることにつながることを示唆している。

子どもを持つ権利

・生殖は親の希望を満たすためだけのものではない。
・性転換者の子育てには、多くの倫理的な問題がある。
生殖する権利は人権として認められているが、彼らの子供の希望を受け入れることができるかどうか?
☞この権利を特定のグループの人々に否定しようとする者には、説明責任がある。
さらに、医学分野としての生殖補助医療の実践と発展を見ると遺伝的につながりのある子どもを持ちたいという願いも、一般的に認められていることを示している。

将来の子供の福祉

子供を欲しがる人を専門家が治療するべきことを意味するものではない。
現在のところ、親がトランスジェンダーであることが、このような過程で育つ子どもに何か影響を与えるということはないが、(Green, 1978; White and Ettner, 2004,2007)、この点に関しては、ほとんど研究されていない。
・立証責任は反対派にあり、安心できる証拠がないからといって、反対の証拠とすることはできない。
・家庭環境の結果として子どもたちが困難に遭遇したとしても、それが自動的に、倫理的に容認できないということにはならない。(Pennings, 2011)。

エビデンスを収集する過渡期

いくつかの点で類似した状況に目を向けてみると・・・
このグループの唯一のユニークな点は、両親のどちらかが性転換していること。
・同性の親権、ドナーの配偶子の使用、社会的スティグマなどの要素は、他の親のグループにも見られるが、いくつかのリスク要因が重なると、事態が複雑になることもある。
例:性転換自体の秘密性だけでなく、ドナー配偶子の使用についても考慮しなければならない。

このような家族の一般的な機能を見てみると、親の性転換が出生前に行われた家族と、子供の生活の中で親が性転換を性転換が行われた家族と、子どもの人生の中で親の性別が変わる家族を区別する必要がある。

生殖能力の問題

◎現在、利用可能なガイドライン(Hembree et al., 2009)では、内分泌療法の適格性と準備基準を満たす被験者は、ホルモン治療の影響について、ホルモン治療が妊孕性に及ぼす影響についてカウンセリングを行うべきでとしている。
しかしながら・・・
・大多数のFTMは、ホルモン療法の際に、自分の生殖細胞を冷凍保存することを考えていなかった。
・20%は検討したことがあるが、医療従事者に相談したことはなかった。

◎配偶子を凍結するという選択肢もまた、複雑な決定を必要とする。
手続きによっては、他の患者さんよりも決定しやすいものもありますが、他の要素はより難しいかもしれません。(SRSの一環として卵巣摘出を行う場合は、卵巣組織の凍結を正当化しやすい)

例えば、FTMが女性と交際する際に、卵子を凍結すべきか?
・多くのクリニックでは、妊娠する女性が妊娠可能な場合、レズビアン間での卵子の交換を拒否している。(Dondorp et al. )(性転換した男性の状況も同様であると考えられている。)

・このような要望は、事前に慎重にカウンセリングを行い、不妊治療センターがこの問題に関する方針を発表する必要がある。

・妊孕性(妊娠ができること)の保存のすべての用途と同様に、凍結の決定は後に使用するかしないかにかかわらず、分けて考えるべき。

結論
今回のデータは、大多数のFTMが子供を持ちたいと思っていることがわかった。
☞性転換移行期には、このテーマをこの話題をワークアップに含め、可能な介入方法を議論すべき。

本研究の欠点
参加者の挙児の希望がどの程度反映しているかを調査していないことです。遺伝的に子孫を残したいのか、それとも親になりたいだけなのか、どちらの願望が反映されているのか、その度合いを調査することができなかったことです。
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自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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