性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

18歳未満の性別違和で、二次性徴(思春期)を抑制するには?

脳下垂体からのゴナドトロピンを抑制する

18歳未満の方で、ご本人の性別違和感を軽減するため、一定期間、下垂体から性腺(卵巣、精巣)に刺激するホルモンを抑制させ、二次性徴の発現を抑制する治療を受けることができます。

この時期に通常の自分が望む性のホルモン治療を行うとからだが元に戻ることができなくなります。

そのため、その性別の違和感が性同一性障害gidによるものか見定めるときに、一時的に二次性徴を止めることができます。

からだを元に戻すことができる治療で、くすりを止めると正常な二次性徴が再開します。

第二次性徴とは?

第一次性徴のみの外見的性差が見られ、タナー段階では、男性では男性器、女性では乳房、陰毛は男女ともに現れ、生殖能力は持ちませんが、それ以降はその発達成熟に伴って第二次性徴が発現し、生殖能力を持つようになります。


例:乳房におけるタナー段階Ⅰ~Ⅴ

GnRHアゴニストの働き

GnRHアゴニストを投与すると、下垂体からのLH、FSHの分泌が停止し、性ホルモンが分泌されなくなります。性ホルモンが分泌されなくなると、男女それぞれの二次性徴の働きも一時停止します。

からだが女性の場合

からだが男性の場合

☞より詳しく
この薬剤は、下垂体前葉のGnRH受容体を競合的に占有して常に刺激することにより、下垂体によるFSHおよびLHの産生を抑制することで、血清テストステロンを去勢レベルまで低下させます。

その結果、ライディッヒ細胞(精子を作る細胞)は投与開始後2~3週間でテストステロンの産生を減少させます。

GnRHアゴニスト療法の精子形成への影響は、投与量と投与期間に相関があり、精巣の萎縮がない限り可逆的(元に戻る)です。

海外の研究によると・・・
・GnRHアゴニストを6~10週間投与した後、7~18週目に精子パラメータの最下点を示しました。
・精子形成の回復は、中止後10~14週目に起こりました。
・投与量によっては、GnRHアゴニストは(FSH/LHの抑制が不完全であるため)完全には造精を抑制しないことがあります。
・長期暴露と追跡調査を行った研究の数が限られているため、いつ、どのような場合に精子形成が回復するのか、正確な時期はまだ不明です。
・GnRHアゴニストの長期使用による生殖能力への影響は、まだ解明されていません。(註:そのため、治療開始後は、2年間を目途になります)

【参考文献】Fertility preservation options in transgender people: A review
Reviews in Endocrine and Metabolic Disorders (2018) 19:231–242

具体的な二次性徴抑制ホルモン治療

二次性徴抑制ホルモンの長期的影響は、はっきりした結論が出ていませんが、若者のほとんどは、データの欠如が治療を求めることを躊躇させることはないと報告されています。

適応する年齢、治療頻度

【年齢開始時期】
およそ18歳で二次性徴が終わるので、適応年齢は15才~18才未満です。
・性別の違和感を訴えているが、もとの性として戻す可能性もある方
・治療開始後は、2,3年で通常の希望する性のホルモン治療に切り替えます
【治療頻度】
・月に1回

※このくすりは、思春期早期(二次性徴が始まる時期)に開始した場合には長期間使用できないので、思春期の発達の状況を見ながら、以下の選択をすることになります。

①使用を中止して、からだの性の二次性徴を再開するか決める。
②本人の思う性に沿ったホルモンの使用に切り替える必要があります。

利点
MTFの場合
・男性化を抑えることができるため、社会適応がしやすくなる。
・治療中は、身長は伸びると言われています。そのため、思春期開始(16歳頃)であれば、女性ホルモンを開始した方がよいでしょう。

FTMの場合
卵巣の働きを抑えるため、女性ホルモン分泌を抑制します。
・月経がなくなる。
・乳房の発育を抑える。
・身長は止まらない。(早期に、男性ホルモン治療を開始すると、骨の成長板が閉鎖し、身長が止まります。)

欠点
・副作用(下記)
・治療費用が自費
月に1回の注射(当クリニックの治療費:¥33.000円)

二次性徴抑制剤の副作用

一般的な症状

・頻度5%以上
不正出血(50%弱に生じる可能性あり)→黄体ホルモンを投与
ほてり、熱感て、のぼせ、肩こり、頭痛、不眠、めまい、発汗
関節痛、 骨疼痛等の疼痛(手指などのこわばり、腰痛、筋肉)

頻度5%未満
性欲減退、冷感、視覚障害、気分変動情緒不安定
眠気、いらいら感、 記憶力低下、注意力低下、知覚異常
悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘、口内炎、口渇
疲労、倦怠感、脱力感、口唇・四肢のしびれ、手根管症候群、耳鳴、難聴、胸部不快感、浮腫、体重増加、下肢痛、息苦しさ

GnRH治療中の骨の発育について

ジェンダー専門クリニックと治療を受ける患者の数が世界中で少ないことを考慮すると、思春期抑制治療の骨発育に対する独立した効果を調べる長期多施設研究は実現不可能とされています。

思春期は骨量増加のピークの時期であり、これは個人の後年の骨粗鬆症になるリスクに影響する可能性があります。

思春期のエストロゲンとテストステロンの変化は、骨量増加のピークに影響を与えますが、思春期に思春期抑制治療を受けたトランスジェンダー成人が成人期に骨折のリスクが高いかどうかは今のところ不明です。

トランスジェンダーのGnRHアゴニスト治療は、中枢性思春期早発症の小児のモデル治療を参考にされています。

中枢性思春期早発症の小児にGnRHアゴニスト療法を少なくとも3年間行った場合のBMDの研究では、年代と骨格成熟度をマッチさせた典型的な発育の小児と比較して骨密度の低下は示唆されていません。

中枢性思春期早発症の小児へのGnRHアゴニスト使用は貴重な臨床モデルとなっていますが、思春期の中断はトランスジェンダーとして識別される個人特有の結果があるかもしれません。

重要なことは、思春期早発症におけるGnRHアゴニストの使用に関する発表された研究の多くが、女児を対象に行われていることです。

【参考医学文献】「Puberty suppression in transgender children and adolescents」
THE LANCET Diabetes&Endocrinology Volume 5, Issue 10, October 2017, Pages 816-826

British Columbia Transgender Clinical Care Groupによるレビューによる副作用報告

1998年から2011年の間に(GnRH)アゴニスト療法を処方された27人の患者を対象。

・MTF1名が気分変動と情緒不安定を報告し、治療を中断しました。

・FTM1名で脚の痛みと頭痛が報告されましたが、治療を中止することなく消失しました。

・1名の患者(男性から女性または女性から男性への不特定多数)が、治療前の体重が85パーセンタイルより大きかったにもかかわらず、治療開始後9カ月で19kg体重が増加しました。

頭痛や疲労などの副作用が報告されています。また、ほてりが報告され、41 例中 4 例でこの副作用のため治療が中止されました。

不正出血は19名(48-7%)に認められましたが、投与6ヵ月後には有意に減少しました(p=0.004)。

さらに、FTMの動脈性高血圧の3例の報告があります。
・1例目(治療開始時年齢11-8歳)では、乳頭浮腫と頭蓋内圧の上昇も認められました。

この症例では、GnRHアゴニスト治療を16ヶ月で中止し、頭蓋内圧亢進を緩和するためにアセタゾラミドを投与しました。3ヵ月後に血圧が正常化した後、保存的監視下でGnRHアゴニスト療法を再開しました。頭蓋内圧の上昇は認められなかったが、高血圧が再発し、ニフェジピンとラベタロールで治療しています。

・2例目(治療開始時18歳)では、治療開始3か月後に動脈性高血圧を発症したため、トリプトレリンを中止した。月経抑制のためリネストレノールが処方されました。1ヶ月後に血圧は正常化しましたが、患者は性成熟に達していたため、GnRHアゴニスト療法は再開されませんでした。

・3例目(治療開始時12-5歳)では、GnRHアゴニスト治療開始3カ月目に高血圧が認められました。この患者は、トリプトレリンを中止することなく、カルシウム拮抗薬で治療されています。

これらの症例は、エストロゲン喪失(思春期抑制による二次的なもの)が高血圧の病態に重要な役割を果たすことを示唆しており、特に治療を中止すると血圧は正常化するが(1、2例)、GnRHアゴニスト治療を再開すると再発する(1例)ことから、このことが示唆されました。

研究者はこれらの高血圧症例は血管保護作用をもつエストロゲンの枯渇によるものと推察しています。(閉経後に、高血圧になりやすくなることと同じ理論)

GnRH治療中の骨の発育について

・思春期は骨量増加のピークの時期であり、これは個人の後年の骨粗鬆症になるリスクに影響する可能性があります。

・思春期のエストロゲンとテストステロンの変化は、骨量増加のピークに影響を与えますが、思春期に思春期抑制治療を受けたトランスジェンダー成人が成人期に骨折のリスクが高いかどうかは今のところ不明です。

・若いトランスジェンダー患者に、十分なカルシウムの摂取、ビタミンDの補給(適応がある場合)、体重をかけた運動により最適な骨の健康を維持するように奨励することも重要です。

◎トランスジェンダーのnRHアゴニスト治療は、中枢性思春期早発症の小児のモデル治療を参考にされています。GnRHアゴニスト療法を少なくとも3年間行った場合、年代と骨格成熟度をマッチさせた典型的な発育の小児と比較して骨密度の低下は示唆されていません。註1)
【註1) 参考文献】Gonadotropin-releasing hormone and its analogues. N Engl J Med 1991; 324: 93–103

◎思春期抑制中の骨付加の著しい減少を生じる可能性がありますが、その後に性ホルモン治療を開始すると、大幅に改善すると報告されています。註2)
【註2)参考文献】Bone mass in young adulthood following gonadotropin-releasing hormone analog treatment and cross-sex hormone treatment in adolescents with gender dysphoria. J Clin Endocrinol Metab 2015; 100: E270—75.

医学的治療を受けているトランスジェンダー患者の骨密度の定期的なモニタリング、治療開始前の骨密度の検査をお勧めします。

治療中は、十分なカルシウムの摂取、ビタミンDの補給(適応がある場合)、体重をかけた運動により最適な骨の健康を維持することが重要になります。

◎未成年の治療になりますので、ご両親の理解がないと治療を進められません。
ご両親といっしょにご来院ください。
◎医学文献の原本が必要な方にはお渡ししますので、遠慮なくお申し付けください。

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自由が丘MCクリニック院長の大谷です

当院は、主に性同一性障害専門クリニックとして、GID学会認定医によるgidに関する診断、ホルモン治療、手術、そして、性別変更までのお手伝いをさせていただいています。
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