体と心の性が一致しないトランスジェンダーの思春期の若者に、「二次性徴」を抑える治療を行うことは有効とされていますが、この治療の精神衛生上の利点に関するデータが限られていました。
アメリカ・マサチューセッツ総合病院のジャック氏らの研究から、二次性徴抑制療法は比較的安全で、成人後の自殺リスクを大幅に低下させる可能性があることが分かりました。
・思春期に性別違和のある場合は、二次性徴抑制治療が有効
・長期には治療ができないので、2,3年後には本格的なホルモン治療を行う必要がある
Pubertal Suppression for Transgender Youth and Risk of Suicidal Ideation.Pediatrics. 2020 02;145(2)「トランスジェンダーの若者と自殺念慮のリスクのための思春期の抑制」
思春期の身体の特徴を抑える二次性徴抑制療法では、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストと呼ばれる薬剤を用いて、性ホルモンの分泌を抑えて二次性徴の進行を止めることができます。
この治療を受けている間、若者には自分の性自認(アイデンティティ)について考える時間が与えられるというメリットがあります。また、この治療を中止すれば、二次性徴はいつでも再開されます。
今回の研究では、18歳から36歳までの平均年齢は23.4歳で、20,619人を対象とし、MTF45.2%、FTM54.8%でした。
思春期に二次性徴抑制療法を受けた経験や、現在の精神的な健康状態についてアンケートを取っています。その結果、対象者の16.9%が性の関連ケアの一部として思春期抑制治療を望んだが、そのうち2.5%しか思春期抑制を受けていませんでした。
人口統計学的観点から、そして、性同一性に対する家族のサポートを調整した後も、思春期抑制治療を受けたひとは、思春期抑制治療を望んだがそれを受けられなかったひとと比べて、生涯を通じて自殺を考えるリスクの頻度はかなり低い結果がでました。
今回の研究は、トランスジェンダーの成人は10人に4人が自殺念慮(自殺を試みる)との報告もあり、トランスジェンダーの若者に対する二次性徴抑制療法が、成人後の自殺リスクの低下と関連することを初めて示したものだとしています。
思春期の思春期抑制治療と生涯を通しての自殺念慮との間には、この治療を望んだトランスジェンダー成人の間に有意な逆相関があります。これらの結果は過去の文献と一致しています。
ただし、長期にわたる二次性徴抑制治療は、生殖機能の低下や骨密度の低下などのリスクを伴う可能性があるので、治療開始後2,3年の猶予として、次のステップに移行するのがよいとされます。
二次性徴抑制治療のリスクとして骨の成長への悪影響を挙げられますが、「数年以内の使用であれば安全性はかなり高い」としています。
その上で、「二次性徴の進行を止めることで、その後に受ける手術を減らせる可能性がある」ことは、この治療の大きな利点です。
自分の性に疑問を持つ子どもの親は、そのことを軽視せず、真剣に受け止めてほしいものです。子どもを支える家族として、まずはかかりつけ医に相談し、専門施設への紹介を依頼すべきでしょう。
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