文責 性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

gidのボディー・イメージ(身体的イメージ)とは?

ボディー・イメージは、自分の体を認知する方法だけでなく、これらの認知についてどのように感じるかを意味します。それは自己概念の重要な部分です。

そのため、多くの個人にとって重大な問題を引き起こす可能性があります。性別違和を持つ個人にとっては、身体のイメージの不満や歪みは、その状態の基本的な側面です。

今回紹介する医学論文は、ホルモン治療の開始前のgidのさまざまなサブグループに対して、gid本人による身体満足度の申告、身体的外観と臨床医による評価結果を紹介します。

対象者は、MTF367人、FTM273人で、それぞれに以下の項目について自己評価してもらってます。

ボディー・イメージの評価方法

トランスジェンダー用のボディーイメージを以下の項目において、ポイントが高いほど満足度が低いという、5段階満足度にしたスケールを使用します。

対象とするからだのパーツは、鼻、肩、お尻、アゴ、太もも、乳房、手、のど仏、陰嚢(または膣)、身長、腕、まゆ毛、陰茎(または陰核)、腰回り、筋肉、毛髪、顔、体重、体毛、声、容姿、胸部

本人の評価結果

MtFはFtMより身体的満足度が低く、今までに経験した性と身体が調和しない外観と感じている。

MtFは声だけでなく、髪、顔と首、および姿勢についても最高の不満度スコアを示した。

一方、FTMは乳房に最も強い不快感を示した。他に報告された不快感の部位は、腰回りおよび胸部サイズであった。

生殖器に対する不満は両グループで高かった。

医者の評価結果

臨床医の評価は、FtMの外観はMtFの外観よりも今までに経験した性とより一致すると評価した。MtFの外観は、運動、言語と声、髪,顔の特徴、および筋肉に関して、経験のある性と一致しなかった。

当事者のボディーイメージのスコアと臨床医の当事者に対する評価は、似たパターンを示した。しかし、当事者が高く不満を持つ身体的特徴のほとんどは、必ずしも臨床医はそうは思っていなかった。

身体的外観に関して、女性指向でないMtFは女性指向のMtFよりも有意に低いと考えられた。同様に、性別違和の発症が遅い MtFは、発症の早い MtFよりも女性的スコアが有意に低かった。

ホルモン治療の有無

ホルモン治療の有無で比較すると、ホルモン治療を受けていない参加者は、受けている参加者と比較して、経験した性別との全体的な身体的調和が低かった。

発症時期と性的指向の関係

MtFグループ内の性指向は、男性が好き(126人)、男性が好きではない(241人)比は1:2であり、 FtMグループの性指向は、女性が好き(219人)、女性は好きではい(54人)比は4:1であった。

性的指向と発症年齢の相関があり、このことは、性別違和が早期に発症したMtFは、男性に対しての性的指向が高く、性別違和が早期に発症したFtMは女性に対して性的指向が高い可能性を示していた。

性的指向と発症年齢サブグループ間の違い

評価全体的な身体満足度に関しては、性的指向と発症年齢の間に有意差はほぼなかった。唯一の傾向は、発症が早いFTMに比べると、発症が遅いFtMは身体的不満度が高い傾向が見られた。(MtFレベルに近いぐらいに不満足度が高い)

FtMでは、統計学的に有意なサブグループ内の差は認められなかった。それにもかかわらず、女性指向と発症が早いFTMは、経験した性といくぶん一致する傾向があった。

MtFサブグループにおいて、身体部分と毛髪に対する満足度は、性的指向によって予測された。さらに、全体的な身体的一致は性的指向と発症年齢の両方によっても予測された。

全体としてのサンプルでは、性的指向は発症年齢よりもいくぶん強い予測因子であった。

これは、早期発症および男性指向を伴うMtFは、望む性と身体とが一致することにより、満足できる身体像および身体的外観を伴っていることが多いことを示唆する。

FtMでは、身体イメージと身体的外観とには有意な予測因子は見出されなかった。

まとめ

多くのFtMはMtFと比較して、男性として実生活していることが多く、実際にその希望する性役割で生活しています。

治療前の私生活および仕事上の生活の質の変化は、身体的不満が低いものと一致します。したがって、身体的満足度の差はグループ間の社会的移行の差に関連する可能性があります。

FtMは自分の身体により満足している場合にはに、社会的移行が良好である可能性があります。社会では、FtMの男性の役割はMtFの女性の役割より一般的に受け入れられており、社会的移行を容易にしているからかもしれません。

FTMなら男性として、MTFなら女性として経験を積んだ場合には、その性で社会的役割を果たすことは、自分の体に対する肯定的な態度に寄与するかもしれません。

一方で、すでに肯定的なボディーイメージを持っている人は、すでに希望する性に移行した人かもしれません。

その他、グループ間の身体満足度の違いを説明しうる他の因子は、今までのホルモン使用期間および年齢です。しかし、今までに至るホルモン使用または年齢と身体満足度の間の関係は確認できませんでした。

ホルモンの投与は、身体的特徴と経験した性との一致に影響することが期待されますが、身体満足度が低い場合は、ホルモン治療が希望する身体的変化を来すのに十分な期間または必要な用量以下で治療されている可能性があります。