胸オペのメリットと目的は、FTMの男性化

FTMのひとたちにとって、ふくらみのある乳房の存在はかなり苦痛なことです。

胸と聞くと、男性にもあるはずなのですが、女性のおっぱいをイメージしてしまいがちです。ふくらんだものであり、女性らしさを象徴とするものと思われています。

FTMの場合、外見は男性として見られる、または、男性として生きているのに、洋服の上からふくらみが目立つ場合、女性と思われたりすることも多く、社会的にハンディキャップを持つことがあります。

見た目が男性的なのに、このようなふくらみに嫌悪感を持つ場合、日常生活ではそれが周りにわからないように、バストバンド、通称「ナベシャツ」を装着もしなければいけません。

このように、男性を自認しているはずのFTMにふくらんだ胸があること自体に嫌悪感や違和感を持つことは当然のことです。

男性ホルモン治療をしても、少し乳房が小さくなることはあっても、根本的に大きさにはほとんど変化がなく、根本的な解決策には至りません。

胸を取ることは、男性化への初めの一歩となり、まず初めに行う手術であることが多いことも特徴の1つです。

また、新しい性別、男性として生活しやすくなるため、そして、より男性としての実生活を体験することもできます。

このように、身体を男性化することの他にも、日常生活において、いろいろなメリットがあります。当院のアンケートでも、胸オペの前後で、生活の質(Quality of Life)は、精神面、肉体的、性的な満足度は大きく変わる結果も出ています。

きっと、あらゆることで自信もつくはずです。

FTM特有の胸オペ

ftmの人たちの間で呼ばれる俗に言う胸オペ。一般人はもちろんのこと、医療従事者に言ってもまず通じません…。

これは、乳房切除、乳腺摘出の手術のことで、性同一性障害GIDの性別適合手術(SRS)の1つです。

この項目では、一番適した手術方法、合併症、麻酔、費用、症例写真、イラストを利用して、詳しく解説します。

FTMの関心事である、「実際にはどんなことをするの?」「ボリュームが大きいから負担も大きい?」「痛いか心配だ」「リスクはあるの?」「麻酔の方法は?」など、いろいろな胸オペに関する具体的なQ&Aも別に用意しています。

現在インターネットでは、いろいろな情報があり、どれが本当のことなのかわかりません。ブログやSNSなどでも、胸オペの経験談のこともたくさん書いてあります。

これらのことすべてが、自分にすべて当てはまるはずもありません。乳房は10人いれば10人違いますから、手術方法、それに伴う結果も異なります。

手術ですから合併症を伴うこともあるかもしれません。

胸オペをするにあたって、自分の手術のことだから、人から聞くだけでなく、自分で調べることも大切です。

当院は過去10年で1500件ほどのFTMの手術をしてきました。胸オペの基本的なことをできるだけ書いたつもりですので、じっくり読んでほしいと思います。

胸オペと、何でみんなそのように呼ぶの?

FTMの人たちによる通称名で、乳腺摘出、乳房切除などの乳房再建の意味になります。

海外では、上部の手術ということで、Top Surgery(トップ・サージャリー)とも呼ばれています。卵巣切除や陰茎形成などは、bottom Surgery(ボトム・サージャリー)と呼んでいます。

国内でもFTMにとって、性別変更までの過程でほとんどの人が最初に行う手術とされています。

FTX(Xエックスジェンダー)もできる?

FTM以外に、性別に違和感があり、性別変更まで望まないけど、自分のからだに違和感や嫌悪感を持っているFTX(エックスXジェンダー、中性、クィアqueer)もいます。

とくに、乳房のふくらみは違和感の1つで、一般的に、ふくらみ=おっぱいは、女性の象徴として考えられているからでしょう。

Xエックスジェンダーだと手術できないと思っているひとも多いようですが、FTXも性別違和を持つことには変わりないので手術は可能です。

これは、性同一性障害の診断書がないと胸オペはできないと、インターネット上のブログなどに書いてあったものと思われます。

男性ホルモン治療の有無

男性ホルモン治療をしているかしていないかは、オペの結果に影響はありません。男性化をどこに趣くかはひとそれぞれです。
胸オペをまず先にする理由は、早く男性として見えるようになりたいから、胸はナベシャツで隠せないから、見た目重視、パス度をあげたかったからなどいろいろな理由があります。

男性ホルモンを最初に始める理由は、見た目は変わらないのですが、一番の変化は、声が低くなる、生理が止まる、男性的な顔になるなどでしょう。

このように、胸オペが先でもよいし、ホルモン治療を最初でもよいので、自分が気になることから治療していきましょう。

胸オペは、脂肪吸引で行うの?

はじめに、乳房の解剖学的構造について触れておきましょう。

手術の目的は乳腺を摘出することです。これは乳房の約70~80%を占めます。

そのため、脂肪吸引だけでは平らにならないので、大部分を占める乳腺を摘出しないと小さくならないのです。

サイズが大きいひとは、皮下脂肪の比率が小さいひとより高い傾向にあります。

乳腺は脂肪よりも硬くて、しっかりした組織なので、脂肪吸引で簡単に吸いだして取り出すことができないのです。

乳房の構造をイラストで見てみましょう。
乳房の構造

青い点線で囲ったのが乳腺で、これを切除し摘出します。

まずは、見たくもないものかもしれませんが、早速自分がどのタイプか客観的に確認しましょう。

手術方法の決め方

キズはどのように残る?

FTMの友だちが、この方法でしたようだから、自分も同じ方法だろうと思って来院される方がたまにいます。

U字切開という手術方法が80%くらいを占めるので、そう思っても不思議ではないのかもしれません。U字切開だと乳輪辺縁下半周を切るだけになります。傷もほとんどわかならなくなります。

手術方法を決める3つの基準

現在の乳房の皮膚のたるみ状態、下垂の程度が、手術方法を決める上でとても重要になります。

  • 胸のボリューム、サイズ
  • 下垂の程度
  • 皮膚の弾力性

乳房が大きいからと言って、即、手術跡のキズが大きく目立つ方法しか選択できないと落胆することはないです。実は、条件によっては、形や大きさだけでは判断ができないのです。

皮膚の弾力性は、皮膚をつまんでみて、簡単に伸びてしまう感じだと弾力性がない皮膚ということになります。皮膚に妊娠線のような、しわがあると要注意です。

大きさ、ボリュームでなく、下垂の程度(どの程度垂れているか?)、そして、皮膚の弾力性(皮膚が伸びるか?)で、ほぼ手術方法が決まります。

乳房の下垂の程度の分類

程度はいろいろです。FTMの場合は、あまり細かく分類する必要はありません。乳房のイラストを載せましたが、この分類で十分です。

イラストは、乳房を真横から見たところです。ほぼどれかに当てはまるはずです。腕を下げた状態で自分のを見てみましょう。
下垂の程度
①   ②   ③   ④    ⑤
下垂の程度:①、②なし、③微妙、④弱⑤強

イラストでは、乳房のアンダーバスト上に薄い水平ラインを引いています。

※アンダーバスト:乳房の一番下とお腹の一番上の境界線で、ふくらみが立ち上がるところで、付け根に当たります。

下垂している場合は、アンダーバストが下乳で隠れてしまいます。

乳房の下垂の程度で、術後にどれだけの皮膚のたるみが出るかわかります。

自分の胸を確認してみよう

アンダーバストのラインより乳房が下にも、はみ出している状態がいわゆる「下垂」しているといいます。

乳房の下垂の程度もいろいろタイプがあるので、詳しく説明していきましょう。

イラストの①、②は、乳房のサイズだけの問題で、大きく分けると4タイプしかありません。

乳房の下垂の程度をえんぴつで知る方法

pencil testという自己判断できる方法があります。

鉛筆を乳房下に挟み込み、手を離すと落ちない人は下垂していないひと。落ちるか落ちないかの人は、下垂の程度が軽いです。
軽度なひと

まったくペンが落ちないで、乳房下で隠れる人は、下垂が強いひとです。
乳房の下垂がほとんどない症例

下垂が重度かは見ただけでもわかりますが、pencil testでは鉛筆はまったく落ちないし、アンダーバストの奥に隠れてしまいます。

自分に適した手術方法は?

乳房の下垂によって手術方法が変わります。自分の下垂度をイラストと照らし合わせてください。

当院の手術方針

手術方法に関しては、ご本人の希望する方法を尊重します。たとえば、現状の胸は下垂があるけれども、どうしても目立つキズ跡は避けたいので、とりあえずはU字切開を第一選択としたい。

その結果、たるみは残るものの、結果に納得し、許容範囲内であれば治療終了となります。また、やはり余ってたるんだ皮膚をどうにかしたい場合、たるみ皮膚切除を行うといったステップを踏んでもよいでしょう。

それぞれの手術方法については、メリット、デメリットを説明します。こちらから「この手術方法しかない」などと強引に勧めませんので、ご本人が納得いく形で手術に臨んでいただきたいと考えています。

胸オペの合併症について

他の一般的な胸部手術と少し異なります。特徴的なものをご紹介します。

出血による血腫

合併症のうちもっとも多いです。

これは、ドレーンを入れていても、バンドで圧迫しているにもかかわらず、頻度は高いとされます。

術後の胸の修正

海外のデータによると、手術後になにも合併症がないにもかかわらず、整容的に修正する必要があるひとは約25%いるようです。

たいてい、脂肪吸引する程度で、乳頭、乳輪縮小の手術も含まれます。

皮膚のたるみが少し生じそうな場合は、最初の手術のときに脂肪はできるだけ残すことが原則です。

理由は、皮下に脂肪を残すことにより、皮膚が時間ととも、たるみが若干収縮し、皮膚が馴染み思ったほどたるまないこともあるからです。これは、弾力性のある皮膚ほど回復しやすいです。

短期間での急激なダイエットでは、顔やお腹に皮膚のたるみを生じてしまいますが、時間をかけてダイエットすると皮膚にたるみが生じないことと原理は同じです。

もっと深く内容を見たい場合は、
胸オペの麻酔

胸オペの疑問解決コーナーも参考にしてください。

参考医学論文☞☞胸オペの長期経過