性同一性障害特例法の成立以降、GID当事者がこの法律によって今までに5000人近く審判を受けてきました。ただ、この人数はGID当事者の全体の一部にすぎません。
一般的には、GID当事者は、もちろん強い性別違和を抱えており、性別適合手術(SRS)の身体的治療を望むひとと思われている感がありますが、実際には、身体的あるいは経済的に手術を受けることができないひともいます。
また、それだけでなく、性別違和があるけれどもSRSするまで希望はしないひと、自分の血のつながった子供が欲しいことなどさまざまな理由があります。
FTMのひとたちの傾向は、男性ホルモン治療、胸オペを希望するひと、両方もしくは胸オペだけというひともいます。MTFの傾向は、女性ホルモン治療までは比較的早くにこぎつけますが、SRSとなると外性器の見た目もかなりハードルが高いように感じます。
性同一性障害特例法には、SRSの要件、特に生殖能力喪失の要件があるので、さまざまな事情を抱えるGID当事者にとってはハードルが高いと言えます。
日本では、日常生活において、社会生活する上で混乱が起きないように、生物学的性の生殖機能から子供が生まれることによる社会的な混乱、家族秩序の混乱などを防ぐため、法律に生殖能力がないことを要件にしています。
この要件に関しては、医学倫理、自己決定権の観点から、各方面から批判がされています。ドイツでは、日本と同じ要件を持つ法律が憲法違反であると判断された例があります。
ちなみに、日本では「優性保護法」の法律に基づき、知的障害を理由に強制不妊手術を強いられた時期がありました。法律改正されてから20年経ち、今になって問題が浮上したわけですが、強制不妊手術が合法であった時代があったわけです。
ある意味、gidに対する強制不妊も今の時代は合法ですが、これらのニュースを聞くたびになにか根本的なことが似ていなくもありません。ほどなく時間が経てば、もしかするとそのときには、gidにおいての性別変更するだけのための強制不妊も合法でなくなる時代が来るかもしれません。
最近では、北欧のいくつかの国では、生殖機能をなくすことが要件ではなくなってきています。WHO(世界保健機構)は生殖能力を性別を変えるためだけに手術することは一種の虐待であり、即刻止めるように勧告しているぐらいです。
このような世界的な流れから、GID当事者の抱える事情、その取り巻く環境はかなり変化してきています。ただ、この法律での生殖能力をなくすことがいいことばかりでないかもしれません。診断だけでよいとなると、医療側の責任が増大し、GID当事者にとっても不利益を被ることもあるかもしれません。
実際には、スウェーデンでは、性別が男性になったFTMが子どもを出産し、生活の秩序が混乱するとさまざまな議論がされているようです。
GID当事者周囲への影響、社会的な受容の可能性、医療体制、他の民法などの制度なども考慮し、バランスの取れた統合的に検討することが必要かもしれません。