FTMが男性ホルモン治療を始めると怒りっぽくなるか?

性同一性障害(GID)認定医 大谷伸久

ポイント
・男性ホルモンが多い男性は怒りっぽいと言われるが、FTMではどうなのか?
・男性ホルモン治療中に生理が継続すると、怒りっぽくなる度合いが増強する?

男性ホルモンは怒りを誘発させるか?

男性ホルモン治療はFTMにとって大切な医学的治療の1つです。最も一般的に使用される男性ホルモン製剤は、筋肉注射です。
その目的は、身体の男性化を維持し、女性の二次性的特徴を減少させることです。そして、月経の抑制は、最も望ましい効果の1つです。

男性ホルモンのレベルと攻撃的な行動の関係については、従来より医学的根拠が示しています。

実際に、男性ホルモンは、力と優位性を得て、それを維持することを目的とした行動を容易にします。しかし、直接的な因果関係のための決定的な根拠がありません。

怒りの自己認識において、人間の脳に対する男性ホルモンの効果は十分に調査されています。しかしながら、男性ホルモンの増加は、怒りのきっかけになりますが、正確なメカニズムは明らかにされていません。

今までの報告によると、怒りっぽさは、①医学的研究を対象とした集団、例えば、精神科に通院しているなど(臨床集団)②一般の医学治療を対象としていない集団(一般集団)で評価されています。

一般的に、臨床集団は一般集団よりも激しく、より怒りをあらわす傾向があり、身体的または口頭で攻撃的な行動によって、それを外に表現する傾向にあります。

怒りの状況における男性ホルモン治療の効果は、臨床集団で十分に調査されていますが、FTMにおける怒りの表現とコントロールに関する調査は、これまでのところ報告されていません。現在までに、ホルモン治療が怒りの強さや表現に影響を与えるかどうかは不明です。

怒りっぽさは、男性ホルモン治療前後で違うか?

今回の研究の目的は、FTMの集団でテストステロン治療前と治療中に怒りのレベルを評価することです。

研究参加者
52人のFTM:平均年齢28歳であった。イタリアのトリノにあるGIDクリニックから参加者を募集しました。

怒りの評価方法
怒りの測定には、怒り行動尺度の心理測定試験(STAXI-2スケール)が用いられました。特定の時間における怒りの強さと、怒りの経験、表現、およびそのコントロールされる頻度を評価しました。

結果
対象者の61.5%(32名)は、精神疾患を持っていなかった。治療中のすべての対象者の男性ホルモン濃度は生理的基準値内であった。

男性ホルモン治療後では、対象者の46.2%(24名)が月経がなくなり、その一方で、対象者のほとんどは断続的な出血があった。(※生理が止まっている人が半数しかいないのは、この研究期間が7カ月で短期間だったから?)

治療前から治療後には、怒りの表現および怒りコントロールスコアは有意な上昇が記録された。持続的な出血と精神疾患を有する患者は、怒りを表現する確率が高かった。しかし、男性ホルモン治療中の男性ホルモン濃度には影響を与えなかった。

連続的な男性ホルモン治療を7ヶ月の間に、怒りの表現と怒り感情の喚起が増加した。生理の持続は、怒りの発現スコアを増加させる要因になった。心理的サポートは、怒りの行動を防ぐのに役立った。

考察
男性ホルモン治療は、男性としての自信、ジェンダーの役割をより強化し、より良い社会的適応ができるように身体的な男性化をも促します。

従来の多くの研究から、男性ホルモン治療は、性転換手術とは関係なく、不安、社会的ストレス、いくつかの心理的面にプラスの効果を持つことができます。さらに、苦痛、うつ病、自尊心、生活の全体的な質も向上させます。

月経の抑制は、FTMにとって最も望ましい効果の1つです。男性ホルモンの血中レベルと攻撃的な行動とに関係があることがわかっています。しかし、男性ホルモンが怒りっぽさに対して、どの程度影響しているのかはFTMの人たちでは十分に調査されていません。

今回の研究目的は、自己報告アンケートを用いて、FTMの怒り発現に対する男性ホルモン治療の効果を評価することでした。7ヶ月の治療の間に、怒りっぽい表現と内面的な怒りの感情が増加したことがわかりました。実際に、怒り表現スコアは、他の人や物に対して、そして自分自身に対して大きな変化がありました。

予想通り、ホルモン治療前後とで、怒りっぽくなるスコアの点数は高くなりましたが、最小限に抑えられました。

怒りの発現スコアの増加にもかかわらず、継続的な男性ホルモン治療中、攻撃的な行動、自傷行為または精神医学的入院の報告はなかったことは、たいへん重要なことであった。

これにはいくつかの理由が考えられます。
(i)より大きな自信を生み出す身体的な男性化、男性としての性役割を肯定するため、そしてより良い社会的機能の改善させることができることにより、落ち着くことによって怒りの感情をコントロールすることができたと解釈できる。

(ii)常にホルモン治療の心理的および社会的影響を観察し、攻撃的な行動の発症を防ぐために毎週心理療法を受けていた。

精神疾患と出血が続くことによって、怒りっぽい感情、表現に影響を与えた可能性を示唆しています。これに反して、ホルモン開始後には、怒りの表現には影響を与えませんでした。

不安障害、気分障害やアルコール障害は最も頻繁な精神疾患であり、怒りっぽくなった人たちは、これらの集団に見受けられました。

興味深いことに、男性ホルモン治療後でも血中テストステロンの濃度がある程度あるにもかかわらず、月経の出血が続く患者は、月経がなくなった患者と比較してコントロールできない怒りを感じ、それを表に出す傾向が強いようです。

月経の出血は、FTMにとって、負の象徴的なもので、生理の出血は典型的な女性の特徴を表しているからです。さらに、出血の持続は、女性の体と男性の内面の自己認識との間に葛藤を生じます。この似たような状態は、性交時などの状況でも強く感じることがあります。

怒りの喚起曲線は、ストレス、怒りや紛争が経験されたときに発生します。

Does Testosterone Treatment Increase Anger Expression in a Population of Transgender Men? J Sex Med 2018;15:94–101.

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